チラ裏書くのも久しぶりになってしまいました。
コロナウイルスによるJリーグの中断期間中は本当に暇でしたが、7月4日の再開が決まって以来少しずつ活気が戻っている感じもありますね。僕もそうですが、Twitterのサッカーアカウントは中断期間中のエンゲージメントがめちゃくちゃ下がっていたと思います。話題にできるネタが戻ってきたことでなんとなく「平時」の生活が戻ってきつつある感じがしますね。
プロスポーツクラブの深刻な経営状況
ご存じの通り、中断期間が明けてもしばらくは観客なしか、入場人数が制限された中での試合開催となることが決まっています。従って、入場料収入や主催試合でのグッズ売り上げ、飲食店の展開による手数料収入などが落ち込むことになるわけで、Jクラブとしてはかなり厳しい経営環境に晒されることになります。中でも影響が大きいのは僕たちの浦和レッズさんで、Jリーグでは圧倒的な入場者数及び入場料収入、入場者一人当たりの消費単価を誇る浦和はクラブの経営上の強みのほとんどが危機に晒されてしまいます。このダメージが他のJクラブと比較してどれくらいかというと、浦和レッズの年間入場者数及び入場料収入はJ1平均の倍程度で推移しているので、各クラブが同じだけの割合入場料収入を失うとすると、浦和の金額ベースのインパクトもJ1平均の2倍ちかくになってしまうというわけですね。
で、実際に浦和レッズは立花社長の会見でこのままでは20億円の減収、10億円の赤字決算になるという壮絶な見通しが示されたところです。
今般、年度経営計画の見直しを図った結果、約20億円の減収、10億円前後の赤字に転落する可能性もあり得ると試算しています。
こういう時、役員の減収はある程度仕方ないと思うんですが、一般職員まで減給になってしまうとしたら悲しいですね。雇用側である役員もそうそう職員の減給なんて決断しないでしょうから、それだけえげつない困難に浦和レッズが置かれているということがわかります。
基本的には多数のファン・サポーターをスタジアムに集めることで関連する収入を稼ぎ、収入の範囲内でクラブを強化することによって継続的に安定した経営を続けていくというお手本のようなクラブ経営が出来ていたのが浦和レッズというクラブだと思いますが、こういうとても普通とは言えない状況では、基本の「き」であるはずの、サポーターがたくさん入ってお金を使ってもらえることが経営の基盤という強みそのものが大ダメージを受けてしまい、それによって健全・優良であったはずの経営状況が非常に脆弱なものになってしまうというのは皮肉なものです。
「健全な」経営のために圧倒的な入場者数とチケット販売の収入をベースにしてきたのが、こういう異常事態では大ダメージになってしまうのが切ない。ゲームを主催してサポーターの高いエンゲージメントを取り込むのが強みなのにサポーターを呼べないんじゃーね。
— 96 (@urawareds96) 2020年6月10日
先日、NPBにのみ認められてきた親会社による損失補填を寄付ではなく広告費とみなすことができるという特例(いわゆる直法1-147)をJリーグでも適用可であるとの見解が国税庁から示されていましたが、とにかく今は、プロスポーツクラブは何がなんでも生き残っていかなければならないというフェーズなんですね。
クラウドファンディングへの挑戦
という流れがあった中で、立花社長の宣言通り浦和もあらゆる形で売り上げを確保し、運転資金を集め始めています。その第一弾となったのが町田ゼルビアとのトレーニングマッチでの投げ銭企画でした。
💪💪💪 pic.twitter.com/OvUfPQChrj
— 96 (@urawareds96) 2020年6月13日
Youtubeで配信しつつ別のアプリ(Player!)で実況番組+投げ銭といういかにもぶっつけでやりました感のある継ぎ接ぎ施策でしたが、久しぶりにレッズの試合を観るチャンスでしたし、そこそこの金額が集まったのではないかと思います。以下のツイートは僕がリーチできる範囲だけなので信頼性はありませんが、「レッズの試合がある、それを観戦できる」という価値にお金を払うよ、という人はサポーターの中ではやっぱりかなり多いのだと感じました。この辺はそもそも浦和は伝統的に招待チケットをほとんど発行しておらず、浦和の試合を観るにはちゃんとお金を出してください、という姿勢を貫いてきたことも要因の一つかもしれません。平時でも一人当たり入場料金が飛びぬけて高いのが浦和サポーターですから、当然っちゃ当然の結果とも言えますね。
この試合でもし投げ銭が出来るなら…
— 96 (@urawareds96) 2020年6月9日
さらに、浦和レッズはこの週末になって同様の集金施策を畳みかけています。
待ちに待った2020シーズンの再開にあたり、『ONE HEART TOGETHER!』の取り組みの一環として、7月4日(土)の試合(ONE HEART MATCH)において、ピッチでのウォーミングアップ時に、チームや選手に向けたメッセージをアナウンスする権利を数量限定で販売します。
スタジアムでメッセージを読み上げてもらう権利に加えて、
『ONE HEART TOGETHER!』の取り組みの一環として、期間内に対象のタオルマフラーをご購入いただくと、再開初戦となる7月4日(土)横浜F・マリノス戦(ONE HEART MATCH)で、本タオルマフラーを、埼玉スタジアムのスタンドに掲出させていただきます。(掲出場所は調整中)
こんなのや、
6月20日、クラブとして初めての試みとなるクラウドファンディングを実施することになりましたのでお知らせいたします。
ついに純粋なクラウドファンディングまで。今までは硬派に「正統派な」スポーツビジネスに注力していたこれまでの浦和フロントの動きからすると、非常に早く、また斬新なマネタイズにチャレンジしていることが伺えます。
実際、この記事を書いている段階ではまだクラウドファンディング開始から24時間経っていませんが、既に3千万円近くの資金が寄せられており、中でもサイン入りユニフォームがリターンとなっているコースは当初の在庫100枚が5時間程度で売り切れ、在庫が追加される事態に。浦和サポのエンゲージメントの高さが伺えます。
ちなみに僕もさっそく支援しておきました。
ぐぬぬぬぬぬぬふつうにサイン入りユニフォームでいいんだけど特定のファンを狙い撃ちしたコースがあって決断できない…!!! https://t.co/4G2WWMDNQM pic.twitter.com/u0fMChaQGb
— 96 (@urawareds96) 2020年6月20日
最後の最後でユニフォームを選んでしまった pic.twitter.com/OFG3EpM13U
— 96 (@urawareds96) 2020年6月20日
強化部との対談はこのブログの立ち位置的にかなり魅力的だったんですが、いざとなったら緊張してあんまりしゃべれないかもしれないし、結局知りえた情報をブログに書けるわけでもないだろうということで断念…。ヘタレが出ました。
浦和レッズのクラウドファンディングは成功するか/ 鹿島のえげつないふるさと納税スキーム
こうなると気になるのは目標1億円に到達できるかどうかですね。開始24時間で1,000人超から1/3を集めるペースですから期待値は高そうに思いますが、前述のサイン入りユニフォームなど魅力的なリターンには在庫制限があることと、選手との交流などのチャレンジングなリターンにあまり人が集まっていないことが懸念材料って感じでしょうか。クラウドファンディングの説明を見ると、今回All-in方式というのがとられていて、要はチャレンジが成功しなくても(1億円集まらなくても)、その過程で集まった資金は浦和がちゃんと受け取れるようですので、いけるとこまで行ってみて、最後どれくらい集まるかって感じなんでしょう。スタジアムの平均入場者が3万人以上いて、潜在的なファンは全国に10万人くらいはいるのではないかというのが僕の考える浦和ファンの規模感なんですが、そのうち半分の5万人が2,000円出せば1億円なので、なんとか1億円には到達したいところです。
そうすると気になるのは、他のJ1クラブがどの程度金額を集めているのかということですが、まったく同じreadyforというクラウドファンディングプラットフォームで挑戦しているのが鹿島です。浦和よりも1週間ほど早く開始された鹿島のプロジェクトは、この記事を書いている時点で1,000人程度、金額は52百万円と、浦和のチャレンジと同じくらいの人数にも関わらず金額規模では1.5倍以上の金額を集めています。かなりの好ペースと金額規模ですが、鹿島のクラウドファンディングはふるさと納税扱いを受けられるのが決定的に効いていると思います。これ、かなりえぐいスキームです。
鹿島のクラファンの方が支援者が多いのに浦和よりも単価が高いのはふるさと納税のスキームのおかげだろうなあ。あれ実現した人は有能。
— 96 (@urawareds96) 2020年6月20日
つまりどういうことかというと、鹿島のクラウドファンディングを支援すると、支援金がふるさと納税として扱われて、アントラーズではなく鹿島市に入ります。ここでふるさと納税の特別ルールが適用されるので、年度末の確定申告で支援した金額-2,000円分の税制控除が得られます。言い換えれば、支援した金額-2,000円分が年度末に払わないといけない税金から控除されるので、実質的な本人負担は2,000円なわけです。鹿島サポーターは本人負担2,000円で3万円、5万円といった金額を支援でき、その差額は支援したサポーターが属する自治体へ払われるはずだった税金の控除という形で捻出される、つまり、全国各地の自治体から鹿嶋市を通じてアントラーズに税金が流れ込む鬼のスキームなんです。(このあたり、もう少しちゃんと調べて後で修正するかもしれませんが、上記は今の理解を書いているということでご理解ください。)
これ、「せこいやんけ!」と言いたくなるレベルのゲームチェンジングなスキームなんですが、国内では2例目ということで一応前例もあるんですね。これ考えて実現させた人は超有能だと思います。一方で、最強スキームにふさわしく、これを導入するには越えなければならない高いハードルが二つあると思います。例えば以下で、
- 鹿嶋市がふるさと納税で得た税収を鹿島アントラーズに投入することが、公共性の観点から承認される。(公共物としての鹿島アントラーズ)
- ふるさと納税は基本的に「今自分が住んでいない自治体」を支援する制度なので、鹿嶋市在住だと返礼品(リターン)が受け取れない
1.を超えるにはかなりの内部調整が必要だったと思います。これ、マジでどうやって調整したのか、どこのどういう許可をとったのか知りたいですね。そのうち何らかの媒体で特集されたら見てみたいです。もしかして、クラウドファンディングされた分の数%は鹿嶋市の税収になるとか決まってるんですかね。そうでないとしても、このスキームで税金取り合い合戦に参戦できるとなると、ふるさと納税で納税額の総量は増えたのに公共サービスに使える予算は全体で減ってしまうということがありそうなんですが、その辺ってどういう議論でクリアされてるのか気になります。
2.は、実は鹿島アントラーズならではの状況を逆手にとってクリアしているといえます。都内をはじめホームタウン外に住んでいるサポーターが多いクラブではこのようなデメリットは大きなデメリットにならないということでしょうか。
ということで、鹿島のクラウドファンディングに浦和を超える単価で資金が集まっているのはこういうスキームが強力に作用している結果だと思います。もう少し細かいことを言えば、鹿島アントラーズはカシマスタジアムの指定管理者なので、スタジアム見学ツアーみたいなことも企画できるのは強いですね。こう考えると、鹿島は近年先手を打ってきた施策が良いシナジーを生み出しているように感じます。もちろん彼らの戦績がサポーターの求心力を下支えしているとはいえ、鹿島フロントの中長期でモノを考える戦略的な意思決定と投資の選択は素直に凄いと思いますし、こういうのは地方クラブを運営する上での一つのモデルになるのではないでしょうか。
翻って浦和レッズのクラウドファンディングですが、目標達成はできるのではないかと個人的には思います。24時間かからずに1,000人以上の支援を得られる規模感というのは唯一無二の強みですし、ふるさと納税の協力な税控除メリットがなくても平均単価3万円近くで初動するというのは浦和サポーターの驚異的な経済的エンゲージメントを表していると思います。先ほどの鹿島のスキームを考慮すると、これまでクラウドファンディングを支援した浦和サポーターの自己負担額は鹿島サポーターの10倍を超えるわけですから、えげつなさは際立ちます。今後勢いは弱まるでしょうが、この取り組みがローカルな媒体に取り上げられることで広く認知されていき、単価を下げつつも金額は伸びていくことを期待したいですね。リーグ再開後の戦績を見て、一度支援した人がさらに支援を追加しようという動きもあるかもしれませんし。レッズもさいたま市とうまく連携して鹿島のようにふるさと納税スキームを実現するとどうなるか、見てみたいきもします。埼玉県内のサポーターが最大勢力でしょうから返礼品の面でデメリットはありそうですが、自分がどうせ払わなければいけない税金の使い道を浦和レッズの経営に指定できるという面が評価されれば、それでもお金は集まるのではないかと思いますし、そもそも都内や県外のレッズサポーターも多いでしょうし。自治体へのロビーイングや議会の理解なんかが必要かどうかはわかりませんが、今からでも今後のために検討してほしい気がします。良いアイデアは恨むより盗むに限ります。
ちなみに、一気にいろいろなマネタイズチャンネルをスタートさせた浦和ですが、チャンネルが一気に増えたことでどこにお金を出せばいいのかわかりにくくなっている面があると思います。シーチケの払い戻しを辞退するのか、払い戻しを受けてクラウドファンディングを支援するのがいいのか、などなど。このへんはクラブではまとめにくい事情もあると思うので、近いうちにやっておこうと思いますが、今回はこのへんで。
今回も長文にお付き合い頂きありがとうございました。
ではでは。