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— 96 (@urawareds96) 2020年6月30日
さっそく書いていきたいと思いますが、浦和だけというよりもJリーグ全体の話から入っていきたいと思います。お楽しみ頂ければと思います。
再開後の鬼日程と特別ルール
J2・J3は既に再開していますが、7月4日からついにJ1も再開し、3ヵ月以上の中止期間分を12月までに消化する超密リーグが始まります。
ざっと10月までのリーグのみの日程でこれですからね。カップ戦に勝ち残れば秋口までほぼ中3日でゲームを続けていく鬼の日程になるはずです。序盤戦は地理的に近いクラブ同士の対戦が続くので移動の負担はそこまででもないと思いますが、その分がリーグ終盤に乗っかってくるので、リーグ後半はやる方も観るほうも無茶苦茶な負担になると思います。
一方で、今シーズンは交代枠が5人まで認められることになり、選手起用の幅は一気に広がることになります。
■選手交代枠
・選手交代枠を5名に拡大する
・交代回数はハーフタイムを除き3回までとする
さらにさらに、特別措置として今シーズンは降格がなくなるため、負けが込んでも留争いを気にせずにシーズンを進められるという非常に珍しい状況も発生します。
■2020明治安田生命Jリーグの大会方式について
●2020シーズンのJ1、J2、J3全てのカテゴリーにおいて、「昇格あり」・「降格なし」の特例ルールを適用する
・J1には昇格はない
・J2はJ1に2クラブ昇格、J3はJ2に2クラブ昇格(条件を満たさない場合は昇格クラブ数に変動あり)
上記が再開後の2020シーズンを考えるうえで認識しておくべきメジャーな特別ルールだと思いますが、これらによって2020シーズンはどのようなものになっていくでしょうか?2020シーズンのJクラブの戦い方はどう変わっていくでしょうか?
特別ルールの2020シーズンには何が起きるか?
これについては、まず大槻監督の言葉を引用したいと思います。
(今年は降格がないことが起用法や戦術にどんな影響を与えると感じているか?)
「攻撃的な試合は多くなるのではないかと思っています。具体的に言うとオープンになるゲームが増えるのではないでしょうか。夏場のスタートということもありますし、過密日程ということで、強度を維持しようとしてもできなかったり、良い守備の組織をオーガナイズし続けることが普段でも90分は難しいと思いますが、オープンになる時間が早くなるのではないかと思っています。5人の交代枠もそれに影響を与えると思いますし、運動量の担保という側面もありますが、攻撃に出るためのカードの切り方が多くなるようなリーグになるのではないかと思っています」
大槻監督の言う通りに攻撃的な試合が増えるかどうかはわかりませんが、得点が多く入る大味なゲームが増えそうなのは間違いありません。過密日程の影響でオープンな展開は増えるでしょうし、選手の入れ替えが多くなれば守備組織の綻びも出来やすくなるでしょう。さらに降格というJ1,J2クラブの究極的なリスクを排除できるシーズンですから、勝ち点1よりも勝ち点3を目指す戦い方を選びやすいということも影響しそうです。
では、過密日程への対処策としての交代枠の増加はシーズンにどのように影響するでしょうか。
もちろんチーム事情や監督によって影響は様々でしょうが、ここ最近のJリーグを考えると、各スタメン11人+3~5人のスカッドの選手を中心にした「戦術競争」という側面が強かったと思います。つまり、特定のメンバーを中心に戦術を浸透させることで安定した成績を残し、他チームの対策を振り切ったチームが上位に進出するといった構造です。2013年~2015年の広島、2016年の浦和、2017年以降の川崎、昨年の横浜などなど、最近のリーグ戦で勝ち点を多く稼いだチームのほとんどがこの例に当てはまると思います。
一方で2020年のJリーグは交代が5人まで認められるわけですから、簡単に言うとチームの半身を試合中に挿げ替えることができます。必然的にゲームに関わる選手は各チーム増えるでしょうし、ベンチメンバーもゲームによって大きく顔ぶれが変わることも想像されます。連戦ということを加味すると、戦い方としては2パターンで、レギュラークラスを中心に+αの選択肢を増やしていくパターンと、思い切ってターンオーバーを連発するパターンが考えられますが、いずれにせよスタメンクラスの11人+5~10人がシーズンを通じて試合に絡んでいくような展開になるのではないかと思います。これはつまり、各クラブの有するリソース(スカッドのほとんどの選手)の使い方をどのように最適化し、ゲームの重要度や対戦相手の特徴に応じて起用していくか、つまりリソース配分が1年間を通じて問われ続ける「戦略競争」にJリーグが変貌していくということではないかと思います。例えば、交代枠が多いことから後半オープンな展開になりやすいのなら、強力なFWを毎試合後半だけ45分プレーさせれば効率的では?という考えで、前半日本人選手を走らせて相手を消耗させ、毎試合後半からオルンガが登場、終盤オープンになったころにオルンガが暖まってきていたら…みたいなことを柏が考えてもいいわけですよね。
戦略とは何か、というテーマについては過去に以下のようなざっくりした記事を書いたことがありますが(今読むともう少し詰めたい内容なんですが)、要は、「環境に合わせて打ち手を設計(特定の戦術を用いることも含まれる)し、リソースを配分することで明確に設定したゴールを達成するよう意図された計画」と言えると思います。大きくルールが変わった2020シーズンの環境に合わせて打ち手を設計し、クラブが定めたゴールの達成に向かってリソースを配分することが勝負を分けると考えると、やはり戦術の練度よりも戦略的な意思決定が各クラブの成績に大きな影響を与えるのかなと思う次第です。
なので、これまでのJリーグにおいて戦術的な練度で勝ってきたチーム、特に特定の選手たちの戦術理解がチーム全体のパフォーマンスを支えており、それが安定した強みになっていたチームが、環境に合わせた打ち手の設計や長期的なリソース配分を間違うと成績が怪しくなってくるということも考えられるわけです。もっとも、Jリーグでは戦術的な練度も怪しいし戦略的なリソース配分の意味でも怪しいクラブもあるわけで、戦術的に成熟しているクラブの相対的な優位は変わらないと思いますが。
で、浦和の話はまだかということで、これまでの浦和レッズさんの起用実績と2020年の(僕の勝手な)予測を見てみたいと思います。
毎度おなじみSoccer D.B.さんのデータを参考にまとめてみました。
対象となっているのはそのシーズンのすべての試合で、ACLやCWCに出場した年はそれらの試合も数字に含みます。一番試合数が多かったのが2017年の57試合、一番少ないのは2018年の48試合と各シーズンでプラマイ5試合くらいの差があるので、棒グラフはクラブが戦ったすべてのゲーム(2017年なら57試合×11人×90分)のうち、どれだけの割合それぞれの属性の選手が出場したかを示しています。線グラフはそれぞれの属性の選手の1試合あたりの平均出場時間をとって各シーズンにプロットしました。
都合のいいことに(?)浦和はここ4年間毎年監督が交代しているので、監督ごとのスタイルが良く出ている数字が出来たと思います。2016年はミシャ・レッズ最高の年ですが、出場時間上位11人で全シーズンの約80%ものプレータイムをカバーしています。まさに中心選手に浸透させた戦術の完成度で戦ったシーズンです。一方で白と黒の線、出場時間上位12位~16位のグループと17位〜21位のグループの平均プレータイムがほぼ同じなのも特徴で、これはターンオーバーでほぼ控え組だけで戦ったゲームが多かったことを示しています。例えばプレータイムで12位の那須大亮の平均プレータイムは約82分と控えにしてはかなり高い数字になっています。グラフには出ていませんがこのシーズンは出場時間1,000分以上を記録した選手が17人いましたが、17位の梅崎司が28試合1,324分出場したのに対して、18番目の選手は第2GKの大谷幸輝で5試合480分とまさに主力と控えの大きな壁があったことがわかります。
2017年はミシャ→堀氏とつないだ年で、2016年に比べて上位11人のプレータイム占有率が下がっています。監督が代わってシーズン途中で起用傾向が変わったことと、ACLに勝ち残ったこともあり多くの選手を使う必要があったことが要因ではないかと思います。グラフに表れない部分では、プレータイムチーム12位の駒井が39試合2,245分出場で1試合平均約57分、14位のズラタンが40試合1,514分で1試合平均約38分、15位の李忠成が33試合1,409分で1試合平均約43分と、出場試合数のわりにプレータイムが限定されている選手が多いことが特徴で、依然として主力+αの戦い方、しかも主力とサブメンバーの起用方針が明確だったシーズンと言えます。
2018年は主にオリヴェイラが率いたシーズンですが、印象通り上位11人のプレータイム占有率が若干上がっています。数字の面では取り立てて2017年と変わるものはないのですが、実は出場時間上位選手の顔ぶれもほとんど変わっていないのが特徴で、監督が代わったのに使えるカードはそれまでと同じという状況だったと言えるかもしれません。
そして2019年シーズンは上位11人のプレータイム占有率が大きく下がり、ここ4年間では唯一70%を切る数字となっています。大槻監督がチーム立て直しのために内部の競争を意識して多くの選手を起用したことが伺える一方で、上位12~16位の選手の平均プレイタイムと17~21位の選手の平均プレータイムに差が開いていることがわかります。内訳を見てみると、18位がファブリシオの25試合1,522分、平均プレイタイム約61分に対して、19位がなんと阿部勇樹で22試合1,110分、1試合平均約50分と差がありました。競争を活性化させつつもだいたい18人くらいのレギュラースカッドを重用していたというのが大槻監督のリソースマネジメントだったんですね。
途中の脱線が長くなりましたが、やっと2020年です。これまで見てきたとおり、2020シーズンは過密日程+交代枠増加で11人+3~5人の主力以外の選手の起用が増えそうなことと、そのリソースをいかにうまく起用していくかがポイントということでした。昨シーズンは主に18人の選手を主力として使った大槻監督も、今期はさらに多様な選手起用を迫られるかもしれません。上図の2020年の点線、網掛けは僕の単なる予想というか勘ですが、やはりポイントは出場時間上位17~21位の選手がいかに戦力になるか、彼らを使ってどれだけの勝ち点を稼ぐかが今季のポイントになると思います。期待も込めて、思い切っていわゆるレギュラークラスの選手たちのプレータイムを減らし、この層の選手が使われることになるのではないかと思います。
まとめると、これまでのJリーグあればベストメンバー+αの主力を中心に洗練された戦術をベースにした強さを発揮できていたチームが、今シーズンはベストメンバーが揃わない試合が多くなることで相対的にその戦術的な強みを発揮できなくなる可能性があるということ。そうなると、選手を入れ替えながらも安定して勝ち点を稼ぐために、ベストではないメンバーでいかに勝ち点を稼ぐか、ひいては自分の持っているリソースをどう過密日程に配分するかがポイントとなるシーズンになるのではないか、ということになります。
で、再開後の浦和レッズを観るポイントは…
リクエストへの回答がこんなに後ろにきていいのかわかりませんが、じゃあ今季の浦和をどう観るのさ?について考えます。
前述の「戦術競争」から「戦略競争」へをベースにしつつ、監督の考え方として実際問題どういうアプローチがあるか考えてみると
- 一つの戦術をなるべく多くの人数に理解させ、誰が出ても良い完成度を目指す。
→シンプルな戦術であれば〇、複雑なビルドアップやポジションチェンジを仕込む場合は、組み合わせの妙をマネージしきれるか?またシーズン中はほぼ戦術練習ができない - スカッドを分けてしまって2チーム作る。戦い方はメンバーに合わせる。
→やり方が整理されていれば運用は比較的楽。ただしAチームBチームで強み弱みが若干変わるので、適切な対戦相手にぶつけられるか?それぞれのキーマンがケガで別チームに移ったり使えなくなったら?
大きく分けてこんな感じでしょうか。「戦略競争」と言ってもピッチ上の戦術の完成度が結果を大きく左右するのは当然なので、戦術の浸透、熟練度の向上というテーマを無視することは出来ません。というわけで実際のところは1を選択するチームが多いと思いますし、大槻監督もそうすると思います。1を選択した中での有利不利としてはやはり戦術の複雑さ、浸透させる難しさ、そしてこれまでの積み上げが要素としてあると思いますが、4-4-2ブロックからのファストブレイク(別名「オシリが浮くサッカー」を標ぼうする3年計画の浦和は比較的シンプルな戦術を志向していると思いますし、その意味では多くの選手が使いやすい環境は整っているのではないかと思います。
4-4-2の場合前後左右に二人組が作りやすいので、もしかしたらそうした前後左右のバディを入れ替えながら11人のバリエーションを増やしていくようなアプローチをとるのかもしれません。汰木-山中の左サイドのバディを使った次の試合はマルティノス-宇賀神を使ってみるとか、興梠を前線に使うときは右サイドは関根で、武藤を使うならゴール前の迫力を増やす意味でファブリシオを使ってみるとか、そんな感じの傾向が出てくると観ているほうとしても面白いですね。これまでまだ僕たちが見たことの無いような選手の組み合わせや化学反応を楽しむシーズンになればいいなと思います。
各所で苦し紛れに褒められている通りスカッドの能力の総和はリーグ内でも比較的高いはずなので、浦和の成績の浮沈は大槻監督のリソース配分の匙加減が重要になってくるのではないかと思います。
個人的な注目選手を挙げるとすれば。やはり前年の出場時間が17位~21位に沈んだ選手たちということになります。昨年の出場時間上位11人のプレータイムは様々な要因で今季は減少するでしょうから、彼らがどれだけの成長とパフォーマンスを発揮できるかが重要になるはずです。というか、こういう予想をした手前彼らがやってくれなければ困ります。で、具体的に昨年の出場時間17位以下の選手はどんな感じかと言うと、
あれ、もう試合出てますね、彼ら。阿部ちゃんはまああれですが。大槻監督凄い、この状況を予見してもうすでにポイントとなるべき選手を起用して…というわけでもなく、単純に戦術を大きく変更したことと世代交代が進んでいる影響でしょう。これで17位~21位の選手がこれから出場時間を延ばしてほしい選手たちだったらバシッと決まったんですが、もう既に今季の主力として扱われることが濃厚なメンバーだとなんか微妙です。ということでもう少し考えを進めると、浦和の場合丁度スカッドの入れ替えの時期なので、既にプレータイム占有争いには地殻変動が起きている状態なんですね。試合数×11人×約90分のパイは決まっていますから、柴戸や汰木、杉本、マルティノスといった昨シーズン不遇を受けた選手たちが主力としてプレーするということは、その分出場時間を減らす選手たちがいるわけです。そういう意味では、これまでの浦和を支えてきたベテランメンバー、特に4バック移行に対応しなければならない槙野や、厳しいFW争いに身を置く武藤、ここ数年プレータイムを減らしている柏木がどれだけこの総力戦を支えてくれるのかが注目ということになるかもしれません。クラブのビッグネームだから彼らに注目ということではなく、挑戦者として、序列が変わりつつある中で彼らがどう振る舞い、チームに貢献してくれるのかという視点で彼らのパフォーマンスを観ると、ひとつ進んだ観察になるかもしれません。
あと、個人的に外せないのは新加入のトーマス・デン。町田とのTMしか観てませんが、彼はかなり良いと思います。身体能力をベースにした前への反応に加えて素早いカバーリングの印象も良いですし、何より繋ぐ、蹴るの能力が予想していなかったほど高い。対角線へのフィードをバンバン通していた町田戦のパフォーマンスは正直驚きました。同じくフィードやビルドアップで貢献できる岩波と並べれば最終ラインの繋ぎはかなり安定しますし、岩波の弱点である裏への対応もある程度は助けられるのではないかと思います。正直、マリノス戦でスタメンでも驚きません。
ということで、この先に浦和の今季の戦術とかを重ねて考察するとこの3倍くらいは字数が必要になりそうなので、この辺で終わります。文字通り怒涛のシーズンとなることが間違いない2020シーズン、いよいよ再開。楽しみましょう!
今回も長文にお付き合い頂きありがとうございました。