96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

パンチの応酬:Jリーグ第16節 vs北海道コンサドーレ札幌 分析的感想

鳥栖戦の引き分けから中3日。札幌ドームに乗り込んでのアウェー札幌戦は、浦和としてはただの1/34ではない、「かつての師」ミシャとの対戦となります。

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札幌ですが、15試合消化で勝ち点14、3勝5分7敗となかなか成績が伸びていません。直近8試合で勝ちがなく、今節は久しぶりの勝利をあげたいところでしょう。得失点差-12からも、今季の苦しみが伺えます。GKクソンユンや得点源だった鈴木武蔵の移籍を埋め切れていない印象ですが、その代わりに大卒ルーキーの田中駿汰が出場機会を得ているなど若手を積極的に起用する采配で戦っているという印象です。

浦和はなんとか上位争いに食らいついているというか、頑張って走っていたらなぜか前の方にいるという感じの今季。前半戦の締めくくりとなる次節は首位を独走する川崎との対戦なので、勝ち点と得失点差の両方で「川崎戦を経ていない」ためのマジックがあるような気がしますが、日程くんが決めたことなので悪いことはないし、その川崎戦の前になるべく多くの勝ち点を稼いで上位争いに留まりたいところです。

両チームのスタメンと狙い

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言い訳だけれど、札幌のフォーメーションはこれで合っているか不明。理由は後述。

浦和ベンチ:福島、山中、マルティノス、汰木、柴戸、長澤、レオナルド

札幌ベンチ:カウィン、キムミンテ、白井、金子、高嶺、アンデルソン・ロペス、ドウグラスオリヴェイラ

札幌の控えGKのカウィンって誰、と思いつつも、両チームのメンバーで興味深いのはどちらかと言えば浦和の方でしょう。ここまでリーグ戦全試合でスタメン出場していた橋岡を帯同させずベンチ外、その代わりに岩波をスタメンに戻しました。DAZNは岩波の右SB起用を熱く予想していましたが、浦和ファンからすればオーストラリア代表で右SBとして出場していた(そしてそのプレーを観て浦和が獲得した)経緯を知っていますから、トーマスの右SB起用はわりと想像できたことだし、前節までの橋岡のパフォーマンスを踏まえれば一回観て観たかったオプションと言えるでしょう。

個人的には今節の札幌vs浦和はここまでのリーグ戦でも最も展開が予想しやすい対戦でした。ミシャが浦和に合わせて何かをすることはあり得ない(そもそも対策するほどのものが今季の浦和にはない、という意味では各チーム浦和対策の布陣は取りにくいので、逆に各チームのいつも通りに浦和が合わせればよいという準備段階での特徴はあるかもしれません)ので、基本的には押し込んで攻撃的に戦ってくると簡単に予想できますし、大槻監督の方も「主体性」という未だ定義の曖昧なキーワードを度々強調するように、相手の特徴は抑えつつも4-4-2をベースにプレッシングとファストブレイクを軸にして戦うやり方は今季ほとんど変えていません(例外は名古屋に大敗した後の広島戦のみ。その広島戦もスタートポジションは4-4-2でした)。つまり、両監督の志向からして殴り合いになることは明らかですし、両チームとも高い位置から相手にプレッシャーをかけていく守備を採用していますから、出場選手はピッチのかなり広い範囲を走り回る必要がある、高いトランジション強度の求められるゲームになるだろうと予想していました。その意味では鳥栖戦でチャレンジしたボール保持の改善を目指す柏木起用はかなり思い切らないとないだろうと予想できました(ただ、「主体性」のために思い切るのかなとも考えてましたが)し、次節川崎戦のことを考えれば思い切った主力の温存もあるかなと考えていました(ただこれは僕の勘違いで、川崎戦までは1週間空くので主力の温存はあまり考える必要がありませんでしたね)。ということでこれまでの連戦に多く出場しレッズのプレー強度を担保してくれていた選手―橋岡、関根、柴戸、レオナルドなど―をどうするのかというのが個人的な注目でしたが、関根以外の選手はスタメンから外れたということで、だいたいは予想通りという感じでした。

ゲームの展開はほぼ上記136字で説明出来てしまいますが、両チームの考え方について整理しておきます。札幌は武蔵が抜けたことで0トップ(それまでのロングカウンターを武器の一つとするやり方からショートカウンターからゴールを狙うスタイルへの変換)を志向していたようですが、今節はジェイを先発起用。荒野の0トップと試したりと試行錯誤があったようですが、今節はシンプルに浦和のクロス対応が弱点なので、そこに強みを置こうという意図だったと思います。駒井とチャナティップが先発しているので、浦和でのミシャサッカーを観ていた我々からすると3-4-2-1かなと考えたくなりますが、どうもそう単純なやり方ではないようでした。浦和の方はレオナルドをベンチに置いて健勇を先発させたことがポイントの一つで、ミシャが敵陣でのビルドアップ妨害にマンマーク戦術を採用していることが分かっている中、現状それを繋いで回避することは難しいしリスクが高いということで、ロングボールを収めてくれる健勇を抜擢という風に考えられます。実際興梠と健勇の2トップは今の浦和では最もボールが収まるコンビですし、裏に抜ける技術とスピードもある二人なので、論理的な起用だったと思います。

パンチの応酬―札幌のミシャサッカーが作り出すゲームの構造①

前半から出入りの激しい、得点の多く入るゲームとなった今節ですが、ゲーム展開がどちらのものであったかというならば札幌のものであったと思います。先制したのは浦和ですが、浦和の得点の要因も含めてゲームの構造を掌握したのは札幌の方だったと言えるのではないでしょうか。

札幌でのミシャは浦和でのそれとは異なる機能性をチームに持ち込んでいると言えます。例えばオフェンスにおいては、浦和では4-1-5の形から攻撃を組み立てていましたが、過去の対戦ではビルドアップ時にボランチが2枚とも最終ラインに降りる代わりにシャドーが2枚とも中盤に降りてビルドアップする形を採用していたり、今節のように4-3-3のような形をオフェンスの初期配置として採用したりしています。守備でも同様で、浦和では相手陣地でプレーし続けることにやりすぎと言えるほどの傾倒を見せた2017年以外の年では基本的に5-4-1ブロックを組んで自陣を人海戦術で埋める形で守っていましたが、札幌ではよりアグレッシブに相手のビルドアップを追いかけるやり方を採用しているように感じます。

今節でも守備はマンツーマンで、最終ラインの設定は高めのまま浦和のビルドアップに人をぶつけていく形でした。

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◆のエリアの2on3も★のエリアの2on2も、どんな形であれマンツーマンで嵌めに行くなら発生するものなので、浦和のプレッシングに対していつも言う言葉を使えば、リスクを負ってでも利益を取るという考えになる。

あまり自信はありませんが、大まかには上図の形で浦和のビルドアップに対応していたと思います。浦和のビルドアップはSBとSHが同じレーンに立たないような意識付けが(特に今季序盤は)されており、今節で言えば岩武が中に入ってビルドアップに参加するシーンがありましたが、その場合でもルーカスが付いて行っていたのでマンツーマン対応で間違い無いでしょう。一方で、両サイドがはっきりとマンツーマンで守ることとは対照的に、いくらマンツーマンとはいえGKがゴールを守る以上、一部のエリアではマンツーマンとは言い切れない守り方を受け入れる必要があります。それが中央の最前線と最後尾で、図では◆と★のエリアです。◆のエリアは単純で、浦和がGKを使えば2on3で数的不利。★のエリアは面白くて、基本配置でアンカーに入る田中とCB中央に入る宮澤が連携して浦和の2トップに対応する形をとっていました。◆のエリアはどんなフォーメーションでプレッシャーをかけても相手がGKを使ってビルドアップ出来れば数的不利を受け入れるしかありませんが、★のエリアは配置上縦関係となる選手が最終ライン中央をケアする形で、これは結構珍しいというか難しいやり方だと思います。基本的には中盤に降りる選手(興梠が多い)をアンカーの田中が、前線に留まる選手(健勇が多い)を宮澤が見ていたように思いますが、このやり方のせいで宮澤と田中の立ち位置(前後関係)が頻繁に入れ替わり、また後述するオフェンスの配置では2枚のCBのように並ぶため、札幌がどんな形で戦っているのかが分かりにくかったです。

浦和の最初のチャンス、興梠が抜け出してループを狙った9:45の場面で分かりやすくこの構造が現れていたと思います。ビルドアップで前進できなかった浦和がバックパス、エリア内で後ろ向きにボールを受けた槙野に対して、ジェイがGK西川へのパスを切るプレッシャー。2on3の関係上ジェイの背中でフリーになった岩波にボールが入りルックアップのための十分な時間を得ると、最前線に残っていた興梠がラインの裏を取って宮澤を置き去りに、というシーンでした。追加点となった19分の健勇のゴールも似たような形で、札幌福森の浮き球のパスが浦和のライン裏に流れたところ、チャナティップが岩波を追いかけるも背中側で本来チャナティップのマークである青木に繋がり、青木が素早く前線に蹴りだすと最前線に残っていた健勇が宮澤の背後を陥れたものでした。浦和としては札幌がマンツーマンで嵌めに来るとこと、その際に最終ラインが高いことは間違いなくスカウティングしていたはずで、もしかすると2トップに対して札幌が2on2を受け入れることも分かっていたのではないかと思います。2トップの背後を狙う意識、そして何よりチャンスがあれば積極的に裏にボールを出す意識からも、狙い通りの得点だったと言えるでしょう。札幌としてはマンツーマンで嵌める以上このリスクは受け入れているでしょうから仕方ないと言えば仕方ないですが、浦和と同様に弱点を放置してでも利益を取りに行くやり方は人によっては受け入れられない戦い方かもしれません。

パンチの応酬―札幌のミシャサッカーが作り出すゲームの構造②

これで今季初の楽勝かと思った浦和ファンが多かったはずですが、甘いですね。甘いです。ミシャの札幌がそうであるように、今季の浦和もこれまで晒されてきた弱点を放置したまま自分たちの望む利益を狙い続けています。僕はもちろんこうした展開を予想していた、わけではなく、「これは今節は楽勝だな!」と普通に油断してました。なんなら思わずツイートする寸前でした。甘ちゃんですよ、ええ。そんなもんです。勝てると思ったら嬉しくなっちゃうんですよ。ファンが素直に喜ぶことは悪いことじゃない。そうだろ?

で、2失点で意気消沈するかと思われた札幌ですが、序盤から見えていたボール保持時の構造上の優位を使い続けます。このあたりどちらかの振舞いが変わったかと思いましたが、特に何かを変えたという感じもしなかったので、札幌は2失点しても何も変えずにやり続けるという狙いだったのではないかと想像します。

札幌のセット時のオフェンス機能は左右非対称で、出場選手の個性に合わせて左右で攻め筋が違います。今節最も目立ったのは札幌の右WB、ルーカスがドリブルで仕掛けまくる姿だと思いますが、左サイドも同様に浦和の脅威となっていました。左サイドの菅はオンザボールで特別というわけではないですが、アスリート能力が高く上下動を繰り返せる選手だと思います。菅が大外にフリーランを繰り出すと4バックを崩さない浦和は大外が気になり、武藤が下がり目で対応するようになります。すると大砲・福森の前に十分なスペースが生まれ、ここから鋭いフィード、ロングパスが前線に突き刺さります。この受け手となるのがジェイで、今節はジェイがバイタルエリアでボールを受けるシーンが何度か観られました。よく観直してみると、浦和はCB槙野と岩波がジェイを挟み、ボールとジェイの立ち位置によってどちらかがマークにつくという感じで守っていましたが、駒井やチャナティップが浦和のCBとSBの間に裏抜けすると、両選手はどうしても反応してしまいます。これで浦和のCBが下がればジェイが空くという感じで、ブロックの中に福森からのロングパス、楔のパスが撃ち込まれるという形になっていました。

この札幌のビルドアップを支えているのが荒野で、スピードはあまりないのですが、ボールを保持して相手との間合いを測れる、足裏を使ったコントロールやターンも出来る、そしてパスを出した後にすぐにポジションを取り直し続けられるといった彼のスキルと特性が札幌のビルドアップに安定感を与えていたと思います。球際で荒っぽいところもありますが、あれだけ闘えてテクニックもある選手というのはリーグでもなかなかいないので、欲しいチームは多いのではないかと思います。デビューしたころはあまり特徴がつかめない選手でしたが、リーグで経験を積んで面白い選手になったなあと思いました。

話を戻すと、浦和時代もそうでしたが、ミシャサッカーがボール保持からオフェンスの威力を発揮していくには、中央はもちろん両サイドにそれぞれ仕掛けの形がなければいけません。単純に前に5枚を置いただけで相手は崩れませんから、両サイドから等しく仕掛けられるような機能をピッチ上に用意する必要があり、それが浦和にとっては宇賀神と関根、特に関根の成長でしたし、今季の札幌で言えばルーカスのドリブルと福森の一発なのではないかという印象です。この両サイドに仕掛けの機会を提供するのが荒野、宮澤に加えて田中の加入で強化された中央のポゼッション機能というわけですね。従って、浦和と比べて最終ラインやボランチからの前5枚への縦パスは少ない傾向にある、というのも違いでしょうか。

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浦和時代とは全く違うセットオフェンスでの機能性。バックラインで相手を剥がしてブロックに侵入する、縦パスをつけるというプレーが多くなく、よりダイレクトに、長い距離でも勝負のパスを打ち込んでいくスタイルになっていると思う。そうした中で、ルーカスの仕掛けの能力は貴重。

一言で言えば、浦和はこの札幌のセットオフェンスに対して無力というか、最終ラインが晒され続けてしまいました。荒野がビルドアップに関わるとそうそうミスが出ないので簡単にボールを奪えませんし、そうこうしていると福森からのパスやルーカスの勝負に持ち込まれてしまうという展開が多かったと思います。どう止めればいいか考えながら観ていたのですが、福森や荒野をマンマーク気味にケアしても田中に運ばれてしまうし、4枚で守っている以上ルーカスにはボールが入ってしまうので、どのみち2失点くらいは仕方なかったかもしれません。札幌のようにマンツーマンで全部潰しに行けば多少違ったかもしれませんが、その場合はその場合でジェイに当てたところからチャナティップや駒井に剥がされてしまえば同じことです。札幌からボールを取り上げることが出来れば一番良いのですが、そんな仕組みは今の浦和にはないので出来ません。つまり、やっぱり殴り合うしかなかったのかなと思います。

というわけで、浦和は30分、34分に立て続けに失点。両方とも浦和の左サイドからジェイのヘディングでしたが、2本とも良いクロスにジェイの上手さと強さが出た素晴らしいプレーだったので、エリア内の対応はあまり攻められないかなという気がします。この失点をなくすなら一本目は関根、二本目は岩武の対応のところで、少なくとも思い通りのクロスを上げさせないように対応すべきでした。特に日本目の岩武の対応は、相手がCK崩れで右に残っていた福森だったことを考えると、左足だけ切っておけばなんとかなった気がするのでもったいなかったですね。トーマスもそうですがやはり1年くらい続けてリーグ戦に出場していないと、初めてマッチアップする選手との対応で後手を踏む感じがあり、この辺は試合に出し続けないと改善しない気がします。もちろんコーチ陣からは左足に注意というのは強調されていたでしょうし、後手を踏んじゃダメなんですけど。岩武は前節に比べてかなり積極的にプレーしていた印象なので、この福森の左足を切れなかったプレーと後半に出たしょうもないパスミスは非常にもったいなかったと思います。

というわけで、幸先よく先制したものの2-2に追いつかれる形で前半は終了。後半かなり押し込まれた印象の強い今節ですが、前半だけでも札幌のポゼッション67%、シュート15本(うちエリア内シュート12本)、CK6本、空中戦勝利数浦和6に対して札幌12というスタッツが出ていますから、やはり前半からかなり最終ラインが晒されてしまっていたことがわかります。

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そっちがグーで殴るなら

後半に入っても札幌ペース。キムミンテが荒野と交代しボランチの構成が宮澤と田中に変わったのでどうなるかと思ってみていましたが、後半立ち上がりはむしろ札幌ボール保持の時間がさらに延び、ほぼ札幌が攻撃を仕掛け続ける形になりました。この時間帯に出色のパフォーマンスだったのは変わったボランチコンビで、最終ラインに降りてビルドアップに関わりつつ、二人で中盤をコントロール、ボールが前進すれば+1としてどちらかがゴール前に入り込むなど、あらゆるエリアでプレーしていました。前線に上がった際にボールタッチがなかったのでスタッツや印象には残らないかもしれませんが、札幌の前線の分厚さを作り出していたのは宮澤と田中の活動範囲の広さだったのではないかと思います。

押し込まれ続ける浦和は54分に選手交代。レオナルドとマルティノスを投入します。おそらく前線でキープできる選手、札幌の最終ラインの脅威になる選手を投入することで押し返そうとしたのだと思います。正直印象としてはギャンブルとしか思えない交代でしたが、直後の56分にはしっかりとマルちゃんがピッチに転がり、ファールをしたりされたりしながらゲームをスローダウンさせていたので効果はあったのかもしれません。60分にはさらにエヴェルトン→柴戸。札幌が後半立ち上がりから前がかりになってきていたこと、そして浦和のポジティブトランジションのところでパワーが出なくなってきていたことを踏まえての投入ではないかと思います。交代カード自体はある程度予定されていたものだと思いますが、60分までに3枚のカードを切る采配は最近の大槻監督としては積極的なものだったのではないでしょうか。

福森のFKを挟んで札幌も2枚代え。2シャドーにアンデルソン・ロペス、ドウグラスオリヴェイラを投入し、筋肉で圧をかけるゴリ押し戦法で次の一点を奪いにかかります。あまりにも浦和がボール保持をする時間が短いので確認できないのですが、この時間帯には札幌ははっきりと3-4-2-1で戦っていたと思います。セットオフェンスではその時の立ち位置がはっきりしている札幌の場合、基本配置が3-5-2と3-4-2-1で何が違うのかはよくわかりませんが、宮澤と田中が前線に絡む回数が多かったことからもボランチを2枚にしてどちらかが前に出ることで前線に人を増やすという意図はあったかもしれません。そんなこんなで12回目のCKから健勇がオウンゴールしてしまい札幌が逆転。ボールが素晴らしかったのでこれは仕方ないですが、後半開始直後から攻められっぱなしだったのはどうにかしたかったですね。押し込まれる→蹴る→回収される→押し込まれるの無限ループからいかにして脱出するかというのは、長谷川健太監督におけるパトリックではないですが、どこかに用意しておきたい要素です。その意味ではこの時間帯、健勇を裏に走らせて時間を作ってもらうようなボール自体を蹴れていなかったのは痛かったところです。

筋肉による支配によって逆転されてしまった浦和ですが、その後の時間帯をなんとか(岩武のミスから西川セーブのシーンは、西川が止めていなければゲームも岩武の今後の出場機会も終わっていたかもしれません)凌ぐと、後半の飲水タイムを経て選手交代。岩武→山中、関根→汰木と左サイドのユニットを入れ替えて勝負にでます。飲水タイムでプレーが一度切れたことで流れが多少変わったというか、札幌がいったん構えたことが良かったのかはわかりませんが、直後に槙野のフィードからレオナルドが抜け出してシュートまで。そのCK崩れから汰木のクロスにマルティノスが飛び込み、こぼれたボールを槙野が押し込んで同点。一連の流れは交代で投入した前線の選手が4人絡んでおり、交代がハマったとも言えますが、なんというか、そっちがグーで殴るなら僕もグーで殴りますみたいな、大味な同点ゴールでした。まあ、菅野のミスでしょう。なお、マルティノスがなぜ腕を上げながらクロスに飛び込んだのかはヴィトンの担当者しかわからないと思います。

この時間帯に入るとゲームは完全にドッグファイト状態で、お互いにゲームのつくり方はかなり雑になっていたと思います。札幌は荒野がいなくなったことでビルドアップで時間をつくる選手がいなくなり、ボールの前進にデザインがあまりみられなくなりました。ただ浦和もマルティノスがヴィトン式プレッシングで相手の最終ラインを無秩序に追いかけるので、浦和は4-4-2のブロックも組めない状態。CHの脇でキン肉マンにボールが入る状態になってしまいます。

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ちなみに、浦和がボールを奪えればもちろん大チャンスだが、2,3回あったレオ→マルティノスと繋がらなかったパスは宮澤その他が死ぬ気で戻ってなんとかしていた。

こんな状態になるともう後は気合と体力がモノを言うわけですが、札幌はこうして危険なスペースにボールをつけられてもその後がなかった印象です。やはり前半は駒井とチャナティップが浦和の最終ラインの間を出入りすることで槙野や岩波が影響を受けていたし、荒野がリズムを調整することで大外のルーカスをうまく使えていたのでしょう。途中交代で入った札幌の外国人選手がダメだというわけではないですが、突っ込んで単発に終わるようなシーンもあり、たぶん自分で決めたかったんでしょうが、アジリティのある先発選手たちが作り出していたようなブロックの中で相手に影響を与えるようなプレーは多くなかった気がします。関根でも岩武でも止められなかったルーカスvs山中が発生する、怪獣大戦争に紛れ込んでしまった庶民が守る浦和の左サイドをあまり使えていなかったのは浦和にとっては助かりました。

ということで、辛くても苦しくても失点せずに守っていれば何かが起きるのがサッカーの原理。80分でジェイが交代したり、札幌が4バックみたいになったり、進藤にミドルを撃たれたり、健勇が全く収められなくなったり、誰かと交代で知らないうちに白井が入っていたり、エリア内で田中にヘディングを合わせられたりしましたがなんとかロスタイムまで耐えると、最後はマルティノスvs福森の1on1から柴戸が決勝ゴール。最後の方は何が何だかよくわかりませんでしたが結果的に浦和が勝ちました。

3つのコンセプトに対する個人的評価

この試合に妥当な採点というものがあるのかどうか甚だ疑問ではありますが。

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「1.個の能力を最大限に発揮する」は6点。浦和の4得点はそれぞれ個人の質が出たものですし、良かったのではないでしょうか。

「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は5点。もっと低い評価も考えたのですが、構造的に最終ラインが晒される中で、3失点しつつもエリア内で体を張り続け、それ以上の失点を防いだ守備陣を特に評価します。あとはビハインドの状況でもやり続けて、最後まで勝ちに行ったところは良かったと思います。守る時間帯が長かったですが、ビビッて引いていたというわけでもないでしょうし。

「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は3点。「相手を休ませない」という評価軸を考えるとどうしてもブロックで守っている時間が長いゲームは評価しにくくなります。「攻守の切れ目がない」という部分を考えても、特に序盤は良い形でカウンターが出来ていたので評価したい気持ちがあるのですが、後半はむしろ守備と守備の切れ目がない感じでしたし、今季これまでを通じてもこの項目はなかなか良い点数がつけづらい傾向があります。ちなみに前半できていた相手の背後への走り出しが後半減ってしまったのは、ボールを回収するラインがかなり低くなり、エリア内からクリアするボールばかりになってしまったことが一番の原因だと思いますが、札幌の後半のボランチコンビ、宮澤と田中の活動範囲の広さも際立っていたと思います。個人的には前半の荒野のプレーが好みですが、宮澤もやっぱり出場し続けるだけあるというか、良い選手だなあと思いました。途中にも書きましたが札幌のセットオフェンスがしっかりしていたので、今節はどういう戦い方を選ぶにしろ無失点というわけにはいかなかったような気がします。ジェイはやっぱり強いし、ルーカスも上手かったです。

浦和としてはセットされる前の状態で勝負を仕掛けるのが今季のスタイルですが、なかなか前から追いかける機会に恵まれませんでした。これが今節の2トップ、興梠と健勇の個性によるものなのか、チームとして少しやり方を変えているのかはわかりませんが、セットディフェンスの強度がそこまで高くない今季の浦和にとっては、らしさを見せるためにはもう少し前から行くような場面があっても良かったかもしれません。ただそもそも、今節の浦和はセットディフェンスからのカウンターを狙っていて、相手を押し込む配置をボール保持を通じて取る機会がなかったことや、札幌の高い位置でボールを回すスキルがミシャのチームらしく訓練されていてなかなかGKまでボールを戻してくれなかったこと等が要因としてあるとも思います。

考えてみると今季の浦和の戦いぶりは、苦しみながらも結果を掴むというものが多いと思いますが、それを評価する項目が3年計画の中にないんですよね。素直に考えればこれは、こういうゲームを3年計画の理想として志向していないということなんですが、この状況を結果が出ないよりはマシと考えるべきなのかどうかは難しいところです。

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そんなこんなで、今節の+3で浦和は6位に浮上。得失点差は相変わらずマイナスですが、16試合を終えて勝ち点27は当初目標からすると悪くない数字です。川崎に勝って17試合で勝ち点30となると、一応年間勝ち点60のペースですから、優勝争いは難しいとしてもACL圏内という目標に対しては恥ずかしい数字ではなくなります。ただまあ得失点差が目標から-14の乖離のまま勝点だけがまともというのはやはり不思議な状態です。内容的には「リスクを許容しているから仕方ない」と言えるものだけでもないのが現実で、何かしらの改善が必要になるのは間違いありませんが、じゃあどうするかというと時間も人もいないというのはこれまで何度も書いていることですので、今更詳しくはやりません。

で、次節は勝ち点44、得失点差+36というモンスター級の成績を残している川崎との対戦。前半戦の締めくくりにはこれ以上ない相手ですが、シンプルにどうなっちゃうのか怖いですね。とはいえ我々は浦和レッズですから、僕の仲間内で繰り広げられる「なんで川崎ってあんな強いの?」「まだ浦和と戦ってないから」みたいな会話の通り、図太いメンタリティで自信をもってぶつかったほうが良いのではないかと思います。言い方は悪いですが、所詮川崎、埼スタで恐れることはあるまい、なのです。

これは冗談としても、レオナルドが怪我でもしない限りは多少ペースが落ちてもそれなりの勝ち点は取るでしょうし、ダメだとしても降格がない今年ですから、個人的にはある意味開き直って正面から思いっきり今季の強みを試してみてほしいと思っています。川崎が浦和相手に小手先の戦術をどうこう練ってくるとは思えないので、大槻監督をはじめとした浦和のベンチワークにも注目です。

 

今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。