今季の鬱憤を晴らすような大勝となった仙台戦から中5日、浦和はセットされた状態で特に完成度の高い「堅い」サッカーでリーグ2位につけるセレッソとの対戦となりました。
前節の大勝で得失点差を-3まで改善させた浦和ですが、今節を含めて残り10試合で9位の浦和より上位のチームと5試合、下位のチームとも5試合戦う日程となっています。首位の川崎は別として、今季の目標であるリーグ3位以内を念頭に置くと、消化試合数に差があるものの暫定2位のセレッソとの勝ち点差は11となっており、勝ち点差=残り試合数までは現実的に追いつける範囲、と言われていることを考えれば残り10試合の猶予はまだ目標達成は自分たち次第だと言える範囲ではないかと思います。
今季のJリーグを見ても様々なフォーメーション、特徴があるチームとの対戦を残す中で、個人的には今節のセレッソが浦和にとって最もやりにくい相手ではないかと考えていました。同じ4-4-2をベースにし、ボール保持にこだわらないスタイルという意味では共通点のある両チームですが、それぞれが志向するサッカー、根底にある思想は全く逆方向を向いています。それを踏まえた今節のプレビューというか、ゲーム前の雑感は以下の通りです。
大勝で勢いがついたチームに逆張りするわけじゃないけど、浦和のやりたいサッカーを消す展開がJ1で一番上手くできそうなのが今季のセレッソ。だから思うようにいかなくても浦和が悪いわけじゃないし、だからこそ、それを超えるエネルギーを期待したいゲーム。 https://t.co/kqZJiuWZbu
— 96 (@urawareds96) 2020年10月23日
ここまでのポジティブな文脈は、能動的にスペースを作りやすいゲームの中で歯車の噛み合わせを見つけたことで紡ぐことが出来たとも言えるのではないかと思うけど、セレッソはそう簡単にはいかない。そうならない時に、どこまで我慢できるか。勝ち点1を嫌がるのはどちらか、という展開に持ち込みたい。
— 96 (@urawareds96) 2020年10月23日
4-4-2でボール非保持を重視という意味では近くても、思想の根底は真逆の両チーム。お互いに理想とする局面で90分を塗り潰せない中で、どういうストーリーを作るか、拮抗を破壊する個人の質を出せるのはどちらかが問われそう。一言で言えば、分水嶺。力を見せたい、そして勝ちたい。
— 96 (@urawareds96) 2020年10月23日
戦術的なポイントはゲーム開始直後の時間帯とセレッソのビルドアップの場面。落ち着いて構えられたら崩しにくい中で、こちらから勢いを見せたい。多少息が上がっても、相手もそうであれば強いのはこちらという自信を持ちたい。先制点を取れば、焦るのはもう負けられないリーグ2位ではないだろうか。
— 96 (@urawareds96) 2020年10月23日
で、実際に、こうした予想のいくらかは当たっていたのではないかと思います。
スタメンと両チームの狙い
浦和ベンチ:福島、トーマス、岩武、涼太郎、青木、健勇、レオナルド
相手ベンチ:永石、小池、西川、藤田、高木、鈴木、ブルーノメンデス
前節のイエローカードで累積警告による出場停止が決まっていた宇賀神を欠く左SBには山中をピック。それ以外はここまで良いゲームを見せられているメンバーをそのまま起用するということで、浦和のスタメンはこれまでの文脈からすれば順当と言えるものだったと思います。予想外のところで言えば柏木の不在で、例えばセレッソに先制された場合に相手のブロックを攻略するために彼をベンチに置いておくのではないかと思いましたが、実際には怪我から復帰した青木がベンチに入ることになりました。またトーマスがベンチに戻ってきており、その一方で関根がベンチ外、涼太郎がベンチ入りするなど、スタメンよりもベンチメンバーの選び方に多少の驚きがあったかなという気がします。
セレッソのほうは右SBの松田が不在。丸橋が左SBに入り、片山が右。また都倉を欠く2トップには奥埜と豊川をチョイス。最近のゲームで得点を記録している二人なのでコンディションやパフォーマンスを重視したのかもしれませんが、このあたりにはロティーナ監督のこのゲームへの解釈というか、浦和のどういう部分を突いて行きたいかというものが出ているのかもしれません。
で、お互いの狙いを考える上ではあまり難しいことはなくて、そもそも志向が真逆のチームなのでお互いに自分たちのやりたいサッカーを相手に押し付け、得意とする局面を多く作り出したい、ということだったと思います。浦和からすればそれはセレッソのディフェンスが整う前に速く攻め切る展開ですし、その方法としてはカウンタープレッシングによるボールの即時奪回や、得意のファストブレイクを多く発動させるための相手ビルドアップへのプレッシングということになります。逆にセレッソからすればトランジションの少ない、不確定要素を排除するようなゲームを作りたいわけで、そのためには無駄にリスクを負うよりも守備の時間が長くなっても構わないし、浦和が前から来るのであればその裏を使いましょう、ということになるでしょう。こうしたお互いの思惑のどちらが実現するのかという点で最も大事になるのは先制点で、だからこそ僕としてはゲームの趨勢が決まる前に、早いうち、できれば前半15分までに先制点を奪ってしまって主導権を握りに行くのではないか、と予想していました。
総じて今節は、お互いのことを十分理解しつつも相手のサッカーを受け入れるつもりはないというチーム同士の対戦であり、そうした思惑がぶつかった時に問われるのは何か、という部分を観ていくのに非常に良い題材となるものだったと思います。
ゲームの噛み合わせ探し
セレッソはキックオフのボールを浦和の最終ラインの裏へ蹴りこむところからスタート。キックオフのプレー選択にはチームの狙いが表れやすいということを考えると、セレッソは浦和が前に来るのであればその裏にボールを入れて勝負しようという考えだったことが伺えます。いつか槙野がコメントしていた通り、浦和としては最終ラインの数的同数は最初から受け入れているというか、そうすることで前へのプレッシングを成立させようという意識があるわけですが、こうした浦和の最終ラインに対する数的同数の勝負を挑んできたチームこれまで多くなかったのではないかと思います。どちらかと言えば、今季浦和に何かを押し付けて勝ちに来たチームがこれまで選んでいたのは浦和にボールを持たせることでしたが、今節のセレッソはどちらかと言えば自分たちがボールを持つことにフォーカスしていたとも言えます。
そもそも、セレッソは守備が注目されるチームですが、どちらかと言えばボール保持からゲームをデザインしているチームではないかと思います。そしてそれは、ボール非保持からデザインを始めると自分たちが難しくなるからかもしれません。セレッソの守備組織は基本的に危険な箇所を埋めて、特にペナルティーエリア内及び周辺の密度を確保することで堅さを維持していますが、そこに起きていることは前の選手の後ろ埋めであり、簡単に言うと堅い守備を維持すればするほど前に攻め残る選手は減っていきます。従ってセレッソはポジティブトランジションにおいて速攻を「選びにくい」チームであり、それゆえに簡単にボールを蹴りださずに低い位置でも繋いでマイボールを確保していくやり方を選んでいるのではないかと思います。これはこの試合でも一部の時間帯でそうだったように浦和にも起きうる現象ですが、浦和はこういう状況を好まず、そうなるくらいなら前に前にプレッシングをすることで高い位置でボールを奪い取ろうとするチームです。そのために隙も出来るしリスクも負うのですが、それを受け入れているかどうかに両チームの対照的な考え方が透けて見えるのではないかと思います。
その浦和は、今節も一度セットした状態から前に出ていく守備を採用。センターサークルの付近で2トップが構え、相手の横向き、後ろ向きのパスに合わせて前に出てプレッシングをかけていきます。この守備はここ数試合継続して浦和が実施しているやり方ですが、シーズン当初からそうだったかというとそうではなく、例えば今季の早い時期(アウェー・ガンバ戦後)には大槻監督はこんなコメントを残しています。
「一つ一つの判断が良くなっています。前線に(守備の)スイッチを入れろと話しています。行け、と。行かない判断はないんです。
このコメントで今節の浦和の守備の方法を説明するのは少し無理があるかなという気がしますので、やはりシーズンの途中でやり方が少し変わったのではないかと言うのが僕の考えです。「行く」判断を明確にすること、逆に言えば「行かない」という判断を一部で認めることが最近安定してきた戦いぶりに多少の影響を及ぼしているような気がします。とはいえ、プレッシングの開始位置が下がった、もしくはプレッシングを開始するタイミングが遅くなったとしても積極的に前に出ていく守備は浦和のゲームデザインの根幹ですから、その周辺の攻防がゲームを左右するのは間違いありません。セレッソからすれば、出てくるチームが相手なら引き出してから裏返そう、というのが基本的なゲームデザインであったと思います。
セットした状態から前へ出てくる浦和に対して、セレッソが最終ラインへの長いボールでチャンスメイクしたのが4分の場面。豊川と奥埜に縦の関係を持たせ、落とす人と拾う人をはっきりさせている辺りも戦術的な整理がはっきりと見られました。そして、引き出して裏返すというテーマで言えばもう一つの狙いは清武の周辺ということになると思います。セレッソとは今季これまで2回対戦していますが、そのいずれにおいても浦和が苦しんだのは中盤のエリアを出入りする清武の存在でした。左SHに入る彼が中央にポジショニングするのは基本のキで、そこからの上下の移動、立ち位置の変化によって相手の守備ブロックを動かし、自分が空くなら天才的な展開、組みたて、スルーパスでチャンスを創出する、そうでないなら背後に大穴を開けさせて味方に使わせるプレーといったように、一人で自分の周囲の複数の選手を動かせるのが厄介なポイントで、過去の2回の対戦ではここからゲームを動かされています。で、今節の浦和はマルティノスを低い位置からスタートさせることで清武の出入りするエリアを潰すような形を狙っていました。一方で、浦和はセットした状態から前に出ていきたいわけですから、ずっとスペースを埋めているわけにもいきません。マルティノス、長澤が前に出て清武をケアできない時は橋岡が前に出るということになっていましたが、この瞬間に橋岡の裏のスペースに豊川が走りこむ、という形を作られたのが6分前後のシーンでした。しかも面倒なことにマルティノスを立たせて潰しているエリアよりもさらに低い位置まで清武が降りてゲームメイクを始めるようなこともあり、序盤の浦和は思うようなゲームに持ち込むことは出来なかったかなという印象でした。ゲームの序盤の噛み合わせ探しの時間帯においては、セレッソの引き出しの豊富さと相手の狙いの上を行く事前の整理の良さみたいなものが良く出ていたと思います。
タフネス王の役割
どちらかがボールを保持するとしばらくその時間が続くという、セレッソ戦の典型的なゲーム展開を踏襲して進んだ序盤は、お互いにいくつかのチャンスを作りながらも無得点で推移していましたが、大槻監督が手を打ちます。
15分ごろに山中と奥埜が事故ったケアをしている間に大槻監督が右サイドの選手を集めて指示。これはおそらくマルティノスを前に出して瀬古をマークするように、という変更で、狙いとしては出入りする清武へのパスコースを塞ごうということだったと思います。スペースを潰してもその外まで動かれる清武が面倒なので、そうであれば入口を塞ぎ、また清武へのマークマンを長澤に任せ、仕事をはっきりとさせるということでしょう。また、これをベースにしたもう一つの狙いが、降りてくるセレッソのCHを浦和の2トップの片方がみることで、2トップのうちボールと逆サイドの選手が縦関係になってアンカー化するCHを観るように変更していました。セレッソのボール保持の起点は相手の第一プレッシングラインに対して枚数を調整するCHの存在であり、中盤の選手が減った分は降りてくる清武やたまに内側でプレーする坂元、そして縦関係の2トップとなっている奥埜が降りてきて埋めるわけですが、単純にこれに4-4-2で対応するとどうしてもズレ、特に中盤中央で不利が出来てしまうため、これをケアしようという意図だったと思います。浦和はこの形でマークを整理したことで大きな穴を作らずにセレッソの変型に対応し、さらにマルティノスを前に出すことでセットした状態から前に出て行く守備も捨てない、という意欲的な守備をしようとしていたと思います。
ただし、この矛盾のような守備を実現させるには、数的同数でプレーする限りはどこかに無理を受け入れなければいけません。3トップ気味にディフェンスをセットする以上、その大外(特にマルティノスの外で余る丸橋)の対応は必然的に苦しくなってしまいますが、大槻監督はこれを橋岡に全面的に任せる、という決断をしたようでした。
このセットディフェンスにおける橋岡の役割はとんでもなく大変で、マルティノスがCBの瀬古をマークする以上、セレッソのビルドアップ時に丸橋にボールが入る場面では最終ラインから相手SBにアタックしなければなりません。ここで対応が遅れれば大外から運ばれてしまいわざわざ3トップにした意味がありませんし、かといって自分の背後は狙われているので最初から丸橋をケアできる高さに居座るわけにもいきません。ある程度のリスクは岩波と槙野のCBに任せつつ、丸橋にボールが入る場面では30mダッシュでプレッシャーに出て行き、もし長澤やエヴェルトンが清武を捕まえられていなければ清武のケアもサボらないという仕事が求められ、ボールが奪いきれなければ最終ラインに戻ってやり直しです。SBがSBをマークするという鬼タスクによって引きながら前に出るという矛盾したディフェンスを実現した大槻監督ですが、こんなことを任せられるのはもちろんチームのタフネス王しかいない、というわけですね。そういうわけで、浦和は瞬間的に4-3-3というか、3-4-3のような形でディフェンスをセットするようになったようでした。
もちろん、これが直後からハマっていたかというと正直微妙なところで、橋岡が出た分はその背中が空くのは変わりませんから、そこに2トップや動きなおした清武が走りこむというシーンが多かったと思います。他には21分に豊川の抜け出しからのシュート、西川のセーブしたこぼれ球に奥埜が詰める、という場面がありましたが、槙野のきわどいプレーがファールを取られていればゲームの雰囲気は大きく変わっていたのではないかと思います。ただこの矛盾をはらんだディフェンスをぶつけることで、セレッソが最終ラインの枚数調整によって簡単にボールを運ぶことが出来なくなり、浦和の守備ブロックが中央から破壊されるということがなかったのは今節のゲーム構造を理解する上では重要だったように思います。
継続と成長、狙いと運
ゲームは拮抗していましたが、27分にセレッソが先制点。西川のゴールキックを跳ね返ったボールがそのまま浦和の最終ラインまで返ってくると、豊川が素早く反応。一歩目の対応でお見合い気味に遅れてしまった岩波が引きずり倒され、カバーに入った槙野もカットインの対応で背中を見せてしまうと、そのままニアに蹴りこまれる、というあまり脈絡なのない形でした。失点としてはチームの戦術や相手との噛み合わせというよりも個人の対応が悪かったもので、大槻監督が試合後に「うーんという失点」と素直に認めた通りのものだったと思います。岩波は一歩目のところで自分が対応する、という反応をすべきでしたし、そうであればあそこまで簡単に体勢が崩れることもなかったのではないかと思いますが、単純に豊川の身体の強さが出た場面でもありました。裏へのボールを多く蹴るのは良いとしてなんで豊川なのかなと思いましたが、かなり上半身が強い選手というのが今節のプレーでよくわかりました。鳥栖の林大地にも体勢を崩されたように、接触や競り合い、重心の崩し合いを挑まれると強くない岩波はまあそうだとしても、槙野と競り合ってもプレーを続けられる選手というのはJリーグではそう多くないと思うので、この辺は海外で戦ってきただけあるんだなという感じです。セレッソの今のやり方ならもうちょっとラフに豊川に蹴ってガチャガチャやらせてもいい気がしますが、チームの方向性がそうではないのと、たぶん体力が持たないのでしょう。
セレッソが先制してゲームを殺す展開になると非常に嫌だなと思っていたのですが、先制後の最初のボールタッチでヨニッチがパスミスを犯して浦和のファストブレイクが発動したのが大きかったのではないかと思います。失点後も続けよう、と口でいうのは簡単ですが、その直後に実際自分たちが狙いとする形を作ることが出来たのは波に乗る一つのきっかけになったでしょう。結局この流れから相手のクリアボールを拾い続ける形で最後はマルティノスのシュートまでいくのですが、この一連の流れで2回ミスをしている片山のプレーは浦和の同点弾の布石になっていたかもしれません。一度目はヨニッチへのバックパスがタイミングもボールをつける脚もずれていること、2回目は長澤のアーリークロスを中央に跳ね返してエリア内のマルティノスにボールを渡していることで、両方とも、セレッソがゲームを殺す上では絶対にやってはいけないプレーだと思います。そのミスの流れが続いたのかどうかはわかりませんが、31分に片山のパスミスを長澤が拾ったところから汰木がエリア内で倒されてPK獲得。これを興梠が決め、先制点とスペースの両方をセレッソに取り上げられ、ゲームを殺されるという最悪の展開を迎える前に同点に追いつくことが出来ました。
同点に追いついたことで自信とエネルギーを充填することが出来た浦和の成長を感じたのは39分からの一連の流れで、片山のロングスロー、CKの流れから立ち位置がずれた状態で2分以上セットディフェンスを続けるのですが、埋めるべきポイントをしっかりと埋めて守備対応が出来ていました。特に浦和の左サイドに対して坂元がドリブルを仕掛け、クロスがこぼれたボールに丸橋がミドルを狙ったシーンで汰木がバイタルを埋め、シュートに対してブロックに入れていたシーンは非常に良かったと思います。一時的にポジションが変わっても組織としての守備を実行できたことは、今季の2度のセレッソ戦でいずれも立ち位置がずれたところからピンチ、失点をしていたことを考えれば大きな成長でした。
このCKをやり過ごすと、ビルドアップから西川のフィードを前線へ。武藤が競ったこぼれ球が浦和の右サイドで収まると、橋岡とマルティノスで前進。マイナスの戻しを受けた長澤がアーリーを入れると、片山のクリアボールを拾った山中が左足を一閃。瀬古に当たったボールがゴールに吸い込まれ、浦和が逆転。
⚽️PLAY BACK GOAL⚽️
— 浦和レッズオフィシャル (@REDSOFFICIAL) 2020年10月24日
こぼれ球を拾った #山中亮輔 が放った鋭いミドルシュートは、相手DFに当たってゴールネットを揺らし、逆転に成功!#urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/QXHFA6L75M
今節はサイドを押し込む→マイナスに戻してアーリークロスという流れが特に前半は多かった気がしますが、もしかしたらこれも狙いのうちだったかもしれません。セレッソのディフェンスはエリア内を埋めるのでセカンドボールを拾いやすいことは分かっていたでしょうし、宇賀神の出場停止で山中を出場させる以上ミドルシュートに期待したいということも大槻監督は考えていたと思います。ちなみに僕がミドルシュートに期待したのも同じ理由で、これまでの対戦でもバイタルエリアでセカンドボールを多く拾うところまでは出来ていたので、そこから先セレッソの守備をこじ開けるにはミドルシュートが良いだろうという考えでした。また、浦和が組織的にミドルシュートを狙っていたであろうことは、このシーン以外にもCKで必ずアウトスイングのボールを入れていた(右サイドならマルティノスではなく武藤が、左サイドでは山中がキッカーを務めていた)ことを踏まえれば、ある程度確信的に語ることが出来ます。山中が強烈なミドルシュートをぶち込んだ清水戦もそうでしたが、浦和はゾーンで守る相手にはミドルシューターを予め配置した上でアウトスイングのボールを入れるというのはよくやっていて、今節マルティノスが2回この流れからミドルシュートを狙ったのは偶然ではないと思います。
セレッソ側からこの失点を観ると、まずは瀬古に当たってのディフレクションのゴールなので不運だったということと、マルティノスが気になってボランチ、特に木本がサイドの守備のヘルプに出ることが多くなっており、そのサポートにデサバトもサイドに寄るので逆サイドのバイタルが比較的空いてしまっていたということは言えると思います。ただ坂元も奥埜も中盤に帰ってきている中での山中のシュートだったので、どちらかというと奥埜が全力でブロックに入っていないことのほうが改善しやすい問題かもしれません。エリア内の密度に強みがあるチームなのでたいていのシュートは弾き返せるという考えだったのかもしれませんが、この場面では山中の左足の威力と浦和に傾いていた運が勝った、ということになるでしょうか。
ゲームを決めた3点目
後半立ち上がりの10分間はセレッソがボールを保持し同点ゴールを狙う展開。浦和は前半同様のマークの合わせ方で中盤をケアしつつ前から行く姿勢を見せますが、やはり引き出して空いたところを使うという前進ではセレッソの質の高さが出ていたと思います。浦和は相手の最終ラインのボール保持に対してはセットした状態から前に前に出て行こうとするのに対して、相手が前進して自陣の攻防に入った時には潔く4-4ブロックを下げて撤退守備を選ぶわけですが、跳ね返したボールをセレッソに回収されてまた攻められるという時間帯となりました。
ただこの時間帯は個人的には安心して観ていられたというか、簡単には崩れないだろうという感覚を持って観ることができました。もちろん前から嵌めに出る分のリスクは負うわけですが、前半に整理したマークの噛み合わせをベースとして、少なくとも中央から簡単に突破されることはなかったですし、撤退時の4-4のブロックは維持できていました。前に出てボールに寄せたときの出足もよく、ボールホルダーの選択肢をしっかりと限定することが出来ていたと思いますし、サイドに大きな穴をあけてフリーでプレーされることも少なく、クロスを簡単に上げさせるような状況もあまり作らせていなかったように思います。そうした意味では浦和のタフネス橋岡ディフェンスはそれなりに機能していたと言えると思いますし、セレッソは浦和のプレッシングを外した後にどこで勝負するのか、という部分で迫力不足で、特に大外を取っている坂元と丸橋のところから良いクロスが入らなかったのが痛かったかもしれません。
56分に橋岡が長い距離を出て行って左サイドの丸橋を捕まえると、トランジションから武藤のミドルシュート。これをきっかけに浦和がゴールに迫る時間を増やしていき、2分後には橋岡のクロスに武藤がヘディングを合わせるも不発という場面に続きます。武藤はここでどちらかを決めていればかなり乗ってくる気がするんですが、どちらも決まらないのがもどかしいところ。仕事量と質は明らかに武藤に期待するそれの水準まで上がってきているので、あとはゴールなんですけどね。
セレッソはこのプレーの直後に選手交代。結果的に2失点に絡んだ瀬古に代えて藤田を投入。木本をCBに下げます。それでもゲームの構造が大きく変わらないでいると、64分には奥埜に代えてブルーノメンデスを投入。浦和のゴール前まではいけるので、その先が欲しいということだったと思います。2トップがお互いに動く選手になったことでビルドアップの先が出来て、ゲーム序盤のように浦和の最終ライン、特にCBを晒すような攻撃ができ始めていたのがこの時間帯のセレッソだったと思います。67分の豊川のシュート、68分のブルーノメンデスのヘディングのどちらかが良いコースに飛んでいれば、というところまでは出てきていました。
✋NICE SAVE🤚#西川周作 のファインセーブ!
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相手に流れを渡さず、リードを守る!#urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/tamgyFBOk2
危険なシュートを撃たれ始めたのを見て、浦和は2トップを交代。これまでなら最初の交代はSHの選手になることが多かった気がしますが、2トップを両方とも変えたのは面白いパターンだと思います。前半途中に整理した守備の部分で負担が大きかったのと、クリアボールを個人で収めてくれる選手が欲しかったというのが理由でしょうか。この交代の瞬間はセレッソに若干の隙があったかもしれません。山中がスローインを早めに入れると汰木がライン際を突破。マイナスでレオナルドにパスを送ると、必死に滑り込む木本を滑らせて無力化。セレッソの選手が3人寄せても動じずに右足を振りぬくとキムジンヒョンがはじいたこぼれ球をマルティノスが押し込んで3点目。これで浦和がゲームを決めました。
⚽️PLAY BACK GOAL⚽️#汰木康也 と #レオナルド の個人技で崩し、最後はこぼれ球を #マルティノス が押し込んでリードを広げた!#urawareds #浦和レッズ #wearereds #サッカー #Jリーグ pic.twitter.com/xTYjAJMxzg
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このゴールはまさに個人の能力が出たシーンで、汰木の突破も良かったですし、なによりレオナルドのエリア内での傑出した能力が出たと思います。エリア内のプレーの質の高さは今季これまで何度も観てきましたが、ファーストタッチで相手のCBを滑らせて確実に撃てるところまでボールを運ぶ落ち着きと判断はやはり並みではありません。セレッソからすると、実は全ての失点に絡んでいるのは片山で、汰木にライン側を突破されてしまったのはちょっと厳しいプレーだったかなと思います。前回対戦時に左SBで出場していた時はこういう甘さみたいなものは感じなかったので、疲労なのか慣れの問題なのかわかりませんが、今節の片山のパフォーマンスは期待以下だったかもしれません。マルチツールで体格もあって個人的には好きなんですが、まあこういう日もあるよって感じですかね。
ウォーターブレークを挟んで3枚替えをしたセレッソですが、その後はセットオフェンスの機能性自体が低下してしまい、攻め込んでいくも浦和のカウンターを受け続けるような展開になりました。久しぶりに高木を観ましたが、彼が入ると清武が右サイドに移っていくのは興味深かったです。浦和では右サイド側でプレーすることも普通だったので、プレーヤーとして左専門というわけではないと思うんですが、どういう基準なんでしょう。セレッソは確実にチーム戦術を実行できるだいたい14人くらいのレギュラーを中心に戦うチームで、従来の戦術競争をしていたJリーグでは非常に優秀なチームだと思いますが、これだけの連戦と5人交代ルールにはうまく適用できていないというか、相性が比較的悪いチームだと思います。選手を変えるほどに機能性が失われてしまうのは、特に今節のようなビハインドの展開では歯がゆいものがあるのかなという気がしました。というわけで、3-1のリードを守り切った浦和が最後までカウンターを狙い続け、ゲームは終了。浦和は前節の大勝がフロックではないことを見せつけ、直近4試合で3勝1分けと完全にブレイクスルーを果たしたことを証明しました。
3つのコンセプトに対する個人的評価と雑感
「1.個の能力を最大限に発揮する」は7.5点。得点に絡み続ける両SHや左足の威力を見せつけた山中に目がいきますが、攻守にわたってタスクを実行したスタメン2トップに加えて長澤とエヴェルトンの中盤も良かったですし、槙野の守備対応もチームを支えていたと思います。
ただ今節は個人的には橋岡が個性を発揮した試合だと思っていて、10.997kmの走行距離に加えて両チーム最多の25回のスプリントが彼の今節の仕事量を表していると思います。マルティノスを前に出す代わりに大外の丸橋を橋岡にマークさせるという一見強引なマークの嵌め方も、橋岡の運動量とタフネスがあってのことでしょう。結構危ういようにも感じる嵌め方でしたが、これによって結果的に2トップがアンカー化する選手をケアすることができ、中央からの単純なビルドアップや中盤での数的不利を防ぐことが出来たので、目立たないかもしれませんが橋岡のタフネスが今節のゲームの構造を下支えしていたと言えるのではないかと思います。オフェンスにおいてマルティノスのサポートが全然出来ていなかったり、上がり過ぎたり上がらなすぎたりすることはまだまだご愛敬という感じですが、ミスしまくってもタフネスで貢献してなんとかするというのは一つのスタイルだと思いますので、試合経験を積みながら彼らしいSB像を築いてくれればいいなと思います。
「2.前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」は7.0点。序盤に噛み合わせで苦労しましたが、強引ながらかみ合わせを見つけてからは前向きに守ることが出来ていたと思います。守りに入る時間が続く場面があったのはゲームの構造上ある程度は仕方ないですし、どうせ評価するなら失点後も気持ちを落とさずに前に前にプレーできたことや、リードを広げた終盤も最後までカウンターを狙い続けたことを評価すべきではないかと思います。
「3.攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」は7.0点。正直もう少しボール保持でチャンスクリエイトできると良いのですが、逆に言えばビルドアップからのチャンスクリエイトがほとんどないような状況でもシュート16本を撃ちこむ展開を作れるのは素晴らしいと思います。川崎と絶望的な勝ち点差が付きながらも2位を守るためには負けられないというセレッソの難しい心理状態がどれほどのものだったかはわかりませんが、失点後に前に出たところから素早く同点に追いつき、そして逆転、追加点と追い詰めていくようなゲーム展開も「相手を休ませない」という意味では素晴らしかったのではないでしょうか。
というわけで、浦和は得失点差をついに-1まで改善し、勝ち点も通常であれば残留確定ラインの40まで積み上げることに成功。12位大分以下の下位チームの勝ち点が明確に伸び悩みつつある状況の中で、何とか上位争いに踏みとどまることが出来ました。しかも川崎が独走しているおかげか、今節の結果2位に浮上したガンバ、そして勝ち点で並ぶセレッソとはわずか勝ち点8差と、もしかしたら何かが起こってしまうのではないか、という期待感すら湧いてきます。残り試合数が9試合、目標の3位圏内とは勝ち点8差、そしてコンセプトに沿ったサッカーが構築されてきており、致命的なけが人も突然解雇された選手もいないという今の状況は、もしかするとリーグでもかなりポジティブなエネルギーに溢れているチームとして数えられるのではないでしょうか。リーグ優勝は現実的には川崎に決まりでしょうが、終盤の順位争いを盛り上げる要素の一つとして、今の浦和がどこまで結果を積み上げることが出来るのか、期待をもって週末を迎えられる日々が、僕たちの生活に戻ってきました。
今節も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。