96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

どうにかして川崎を倒したいから気合入れて考えてみた。

このエントリは既存データと直近の川崎フロンターレの試合を僕が観察した結果導出された、今季前半戦最強チームである川崎フロンターレを浦和レッズが倒すために必要な方策に係る考察をまとめたものであり、その内容は全て妄想です。

最強・川崎フロンターレ

ここ数年の川崎が成績面で成功を収めていることは改めて語る必要すらないでしょう。しかし、今季ここまでの川崎はその中でも図抜けた成績で大きなインパクトを残しています。

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17試合(神戸との第24節を先食い済み)で勝ち点44は歴代最多ペース、得失点差は驚愕の36。得点52も当然歴代最高ペースで、本当であれば歴代最多勝ち点近くで優勝を狙えるペースのセレッソですら大きく水をあけられてしまっていることからもそのエグさがわかります。名古屋に敗北し前半戦無敗を逃したものの、ほかに川崎から勝ち点を得られたチームは神戸と鳥栖のみという、まさに今季前半戦最強チームと言えます。

川崎の強さはいろいろと語られていますが、現在も4連勝中と今季の連戦続きの中でも安定して結果を残し続けていることは特筆すべきでしょう。連戦の中でもうまく控え選手を使いながら戦い、交代選手の投入によるギアチェンジで一気に勝負を決めるというのが今年の強みの一つと言えると思います。

再開前に僕も以下の記事で連戦が続く今季はプレータイムが分散されて、上位17人目以降の選手がどれだけゲームに関わってチームに貢献するかがポイントではないか、と書きましたが、交代選手が直接的な結果に貢献している度合いでいえば川崎は歴代のチームでも飛びぬけてよい状態にあるのではないかと思います。

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調べてみると、出場分数上位11人の得点が25であるのに対して、12位以下の選手がなんと8選手27点取っているようです。浦和で同じように調べてみると、上位11人で19点、12位以下の選手が5点(興梠3、武藤2)という結果ですから、両チームの状態や完成度に加えて、もしくはその結果として、交代選手の影響力の違いが大きく表れているのがわかります。

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ちなみに、選手の出場時間からいうと、川崎はバックラインを固定気味、浦和はポジションよりも26歳以下の若い選手が出場機会を多く得ている傾向がわかる。

川崎の出場分数12位以下の27点のうち、大部分を稼ぎ出しているのが9得点の小林悠と8得点の三笘薫です。出場時間当たりの得点数が異常に高い両選手ですが、やはり警戒しなければいいけないのは三笘で、旗手とともに大卒ルーキーながら継続的に試合に絡むと、個人スタッツでも圧倒的な数字をたたき出し、ドリブル、そして得点と試合を動かせるアタッカーとして既にリーグ最強ともいえる質を見せつけています。

出場するほとんどの選手が高いボールスキルを有し、鬼木監督のマネジメントによって各選手が高いレベルの競争の中でプレータイムを分け合い、その土台の上で突出した個性が輝く。川崎は今クラブ史上、そしてリーグでも稀にみるほど完璧な状態のチームと言えると思います。

敵を知り己を知らば…①:今季の川崎

比較すると体調が悪くなりそうなので「一方浦和が今どういう状況か」という話はしませんが、どんなに相手が強くても対戦を避けられないのがリーグ戦。どうせやるなら勝ちに行くのが筋でしょう。というわけで、ここからはざっくりと今季の川崎の戦術的なポイントを理解し、その上で浦和がどう戦うべきかを考えていきたいと思います。川崎はめちゃくちゃ強いチームですが、それでも無敵ではないし、Jリーグのチームらしい部分も十分に残っています。これまで他のチームがなかなか突くことが出来なかった弱点を浦和が突ければ、そしてあわよくばそれが浦和の強みであれば、勝機とは言わないまでもダメージを与えることは出来るはずです。

まずは今期の川崎の強みを整理していきましょう。

  1. 止める蹴る、運ぶ外す(風間式)
  2. ポゼッション(立ち位置、間の攻略+大外)
  3. ハイプレス(4-3-3)
  4. ミドルプレス(4-4-2)
  5. チェンジオブペース(交代戦術…ゲーム戦略)

多すぎだろ!浦和なんてサッカークラスタが一生懸命言語化しても「フォワードが強い」くらいしか言ってもらえないのに。しかもこれだけ挙げても川崎の強さの論点はまだまだあるでしょうし。全部やってたらもうその先考えたくなくなりますが、一応見ていきます。

1.止める蹴る、運ぶ外す(風間式)

これはわかりやすいでしょう。やはり前体制である風間大僧正の教えは今日の川崎にも息づいています。実は最近図書館で10年前に書かれた風間大僧正による経典を見つけまして、ちょっと読んでみたんですが、よく言われるトメルケルだけではなくて、彼は「運ぶ」と「外す」も重要な要素として同列に並べていました。

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今季の川崎はこのうち「運ぶ」がこれまでのJでは見たこともないほど質が高くて、おそらくどんな選手の組み合わせでもピッチ上の選手のうち8人くらいは「運べる」選手が出てきます。要はなんとかして自由を奪わない限り、どんな局面、どんな場所、どんな選手でもだいたい運ばれてしまいます。そのまま運ばれればゴール前ですからアプローチにいかなければいけないわけですが、そうすると「外す」「蹴る」「止める」が発動してシュートチャンスを作られる、というのが川崎相手に守る際に一番嫌な点ではないかと思います。

2.ポゼッション(立ち位置、間の攻略+大外)

セットオフェンスについて。選手の組み合わせにもよりますが川崎はセットオフェンスで相手を押し込むと頻繁に2-3-5の立ち位置を取ります。この時厄介なのが両IHのシャドー化で、特に4バックで守っている場合はSBとCBの間を頻繁に出入りされます。そのまま中盤に降りていくこともあるし、裏抜けを狙ってくることもありますが、それが気になって最終ラインが絞れば大外でWG勝負となってしまいますし、IHが下りた際にはWGが中に入ってシャドー化するパターンも頻出し、その場合はSBが上がって大外を取ってきます。

ボールサイドではIH、WG、SBの三人が円滑に連携して崩しを狙うというのがやり方ですが、さらに厄介なことに逆サイドにも仕組みがあります。今季の川崎は逆サイドのWGが崩しの段階で中に入り込むということはあまりなく、大外で待っているほうが多い気がします。この状態で深い位置から深い位置へのサイドチェンジはなかなか入らないわけですが、そこを埋めるのが逆サイドのSBで、相手の2列目がスライドして空いている逆サイドのハーフスペースでサイドチェンジのパスを受ける役割を果たしています。ここを経由すれば逆サイドのWGに簡単にボールが入る上に、スムーズにサイドの2on2もしくは3on2に持ち込めるわけで、スライドしてから遅れ気味に守備対応せざるを得ない相手ディフェンスは簡単にエリア内に侵入されてしまい、めちゃくちゃ不利な状況に陥ります。

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崩したらゴール前にはCFが、マイナスにはIHが、そしてさらにファーには逆サイドのWGが狙い目を持っているっぽい。

3.ハイプレス(4-3-3)と4.ミドルプレス(4-4-2)

次に川崎のボール非保持での振る舞いについて。今季の川崎の試合は清水戦、セレッソ戦、名古屋戦を観ましたが、だいたいどの試合でも4-3-3と4-4-2を使い分けていました。形としては右IHに入る脇坂の立ち位置で形が変わるという感じでしょうか。

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ベンチの指示ではっきりと形を決めていない時は脇坂周辺に何かしらのルールがあると思うが、数試合観ただけではよくわからなかった。

4-3-3でプレッシングする場合の川崎は概ねハイプレスを仕掛けます。WGは明確にCBの外側へのパスコースを切り、中央へ追い込みます。相手がプレッシャーを感じながら中央につければ、待ち構えていたIHがボールを狩り取るというのが大まかな設計でしょう。この場合、自陣でセットするときは4-5-1と4-4-2の間のような微妙な形になります。

4-4-2で守る場合は若干プレッシングが弱まり、スタンダートな中央閉めのブロックを組みます。相手が4-4-2のまま形を崩さない(川崎相手にあまり大きく形を崩すと引っかかったときのリスクが大きいですし、川崎が4-3-3で追ってくるなら4-4-2のままビルドアップするのは賢明と思います)ビルドアップをしてくる場合には4-4-2で数を合わせつつミドルゾーンで構える守備に移行する、という形が多いように思いました。セレッソ戦では途中から完全に4-4-2に移行したことで川崎のゲーム支配が強まったという側面があったように思いますし、名古屋戦でも4-4-2で構えてから迎撃する形が多かったように思います。

このように、プレッシングや守備の形を複数使い分ける川崎のボール非保持のレベルの高さが規格外の支配力と安定した強さ=圧倒的な得失点差の基礎となっていることは言うまでもありません。

5.チェンジオブペース(交代戦術…ゲーム戦略)

最後の5.は戦略面。前章で見た通り、今季の川崎は交代選手が異常な得点率でゴールを重ねています。得点に結びつかない場面でも、チーム内の競争を背景にモチベーションと体力のある選手を投入し、例えば飲水タイムの直後や後半開始から一気にギアを上げて相手の流れを乱し、試合を決めてしまうというのがパターンです。ひとたびリードを奪えば相手のほうから前に出てオープンな展開を選ぶしかないわけですが、「運ぶ」に強みがあり前線に1on1を制する能力のある選手を有する川崎にとってこれは最高のデザートタイムで、今季川崎とは真逆の方向性の安定感と強さを見せているセレッソですら、リードを許したことで前に出ていく必要に迫られ、オープンになった終盤に失点を重ねた結果5失点と無残にも食い尽くされてしまっています。

敵を知り己を知らば…②:川崎の弱点、そして浦和の強みとは?

で、僕は川崎を褒めたいんじゃなくて勝ちたいので、なんとかして川崎の弱点を探します。何試合か見てここかなーと思ったポイントは以下の通りです。

  1. ハイプレスに出ていく際の隙
  2. 裏返された後のIHの戻り
  3. カバーリング意識の強いCBと逆サイドのSB
  4. 異教徒たち
  5. セットディフェンスの曖昧さ

1.ハイプレスに出ていく際の隙

別に川崎が悪いと言うほどのものでもないですが、川崎が外切り+中央で狩るハイプレスに来るのであれば確実にWGとIHの背後は空きます。川崎からすれば、それ以上にパスコースを消しながら相手との距離を詰めてボールホルダーに後ろを向かせれば良いわけで、ここはビルドアップとの競争です。実際WGの選手たちは外切りをしっかりやってますし、非常にうまい選手も何人かいます。しかしサッカーの原理は他のチームと等しく川崎のプレーも制限していて、川崎のプレッシングは相手のCBの外側のパスコースを切るところから始まりますが、さすがにバックパスは制限できませんし、物理的に余るGKは比較的自由を得ることが出来ます。GKがWGの背中で待つSBにミドルパスを通せれば、もしくはIHが出てきた背中を取っているCHや前線の選手に正確にボールを届けることが出来れば、局面は大きく変わります。

川崎相手に何もできずに敗戦した清水と、一時的にであれリードを奪ってゲームをコントロール出来そうだったセレッソの違いはこのGKを使ったビルドアップにあったと思います。セレッソがキムジンヒョンを使いながら川崎のプレッシングの最前線を飛ばしつつ前進したのに対して、清水のGK大久保はほとんどフィードを通すことが出来ませんでした。結果的に近くで繋ぐだけになった清水は川崎のプレッシングに完璧に捕まり、幾度となくショートカウンターを浴び続けることになりました(被ボックス内シュート25本を記録。守備練習ですらなく、文字通りサンドバッグ状態。より正確には、死体蹴りと言えます。逆にこれでよく5失点で済んだなという感じで、川崎が外しまくっていました)。逆にこのプレッシングの第一波を超えることが出来れば、川崎の隠している大きなリスクを顕在化させられます。

プレッシングの第一波をはがされた際の川崎の守備設計は最終ライン、特にSBを使ってボールが落ちてきたところを潰すことのようです。実際、セレッソ戦ではIHの脇を埋めるためにボールサイドのSBがボランチの位置まで出ていき、3-2-5(またはボールサイドでないIHが中盤に残って3-3-4)の形で守備をするような局面が見られました。

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アンカーの脇をどう対策するかに工夫が必要なのは、同じルールでプレーする以上どのチームも平等な悩みと言える。ここをうまく隠しているなら、その分どこかに無理がある。

2.裏返された後のIHの戻り

つまり、第一波を超えればSBが出てきて潰しに来るわけですが、ここが勝負所です。ここを超えることが出来れば川崎の最終ラインは3枚だけ。しかも2.の通り、プレッシングの第一波に参加しているIHの選手は素早く戻れませんし、実際戻りません。風教の言葉を借りれば、「前向きの矢印」を外された瞬間に、川崎の中盤より前の攻撃的な選手たちはプレーと集中力が途切れる傾向にあり、ここは狙いたいところです。

浦和のビルドアップは客観的に観て今季のJ1で最低レベルの完成度ですので、川崎のプレッシングを正面から何度も外せるとは思えません。しかし歪なことに、浦和はGKだけは日本トップクラスの、そして実際僕が今季をここまで観た限りJナンバーワンのフィード性能を発揮できています。無理に繋がずに、川崎のプレッシングをおびき寄せて西川のフィードから川崎のプレスの波を飛び越え、一気に川崎の最終ラインと浦和の前線の個人の質勝負を挑むというのは浦和がこのカードで最も得点がしやすいパターンだと思われます。浦和としては、この状況を発生させられるならば最大の武器である2トップの質が輝く可能性が高く、殴るならここ、というポイントです。

(セレッソの先制点はまさにこの形から。SBの落下地点のケアはかなり意識されているが、後追いで出てくることには変わりないし、SBが予防的に前に出てくるのであれば、それは最終ラインで数的同数の勝負が出来ることを意味します)

3.カバーリング意識の強いCBと逆サイドのSB

川崎のセットディフェンスは、形にもよりますが選手の個性が強く表れます。中盤の選手のサポートであったりスライドであったりというのもそうなのですが、ここではCBの個性に着目したいと思います。川崎のCBは谷口とジェジエウのコンビが多いと思いますが、二人とも攻撃的なチームのそれらしく、非常に守備範囲が広く、無理が効くタイプの選手です。サポートが早く、何らかの理由で中盤の選手の対応が遅れてもカバーできるようにプレーしていますし、エリア内での対応にも冷静です。その一方で、カバーの意識が強いためにCB2枚が守備ブロックよりも大きくボールサイドにスライドすることがあります。この時に逆サイドのSBが絞れていないことがあり、ボールと逆サイドのCBとSBの間にスペースが、空間的にだけでなく、精神的な隙間として生まれることがあります。名古屋が勝利をつかんだ金崎のゴールが形としては多少近い気がしますが、ここにピンポイントのボールを放り込めるならば川崎であっても無力です。そして、浦和にはこれが出来そうな選手が…。あまり割の良い賭けではないですが、狙うことに価値はあるでしょう。

4.異教徒たち

川崎のビルドアップへの対応について。大槻監督が語る「主体性」を信じるならば、浦和は川崎との対戦であってもある程度はプレッシングを試すでしょう。川崎の選手のビルドアップのスキルからすれば普段以上にリスクが大きいはずですが、工夫のしようはあると思います。メンバーにもよりますが、川崎は8人の純教徒(ボールプレーヤー)と3人の異教徒で11人を構成することが多いように感じます。最前線のダミアン、最後方のチョン・ソンリョン、そしてCBのジェジエウが、いわゆる風間的でない選手と言えます。実際にビルドアップにおいては、川崎はほとんどGKを使いません。使う必要がないとも言えるし、使わないとも言えるのですが、とにかく事実としてGKの貢献はそこまで大きくないと思います。ジェジエウはソンリョンに比べればボールに触れる機会が多いですが、他のボールプレーヤーとは「フリーの概念」が違う選手です。つまり、受ける選手(もちろん、風間的ボールプレーヤー)が受けられる!と思って要求している場面でも、ジェジエウにとってはパスを付けられない、つまりフリーではないというズレが時々起こります。浦和が前からハメに行くことを考えるとき、この二人には比較的ボールを持たせやすいと言えます。この二人は近くに(彼らの概念での)フリーがなければほかの選手に比べて簡単に蹴ってくれますから、そこからは球際の勝負で、そうなれば浦和にも勝ち目はあります。普段はレオナルドがGKまでプレッシャーに行くところから後追い気味に始まる浦和のプレッシングですが、川崎相手ということを考えればあえて捨てる選手を決めることでリスクとリターンをコントロール出来るのではないかと思います。

狙いどころを整理することで川崎に気持ちよくボールを持たせなければ、川崎のバランスやリズムは多少なりとも崩れると思います。今季の川崎は最後尾でのボール回しから最前線の崩しの局面まで様々な役割をこなすIHを中心に、広いエリアでサッカーをしています。その分消耗も大きいはずで、ボール保持が安定したところでペースを落とし、休む時間を大切にしている印象なのですが、もしこの時間を得られなければ確実にプレー強度は落ちていくはずです。5人交代できるのが厄介ですが、こうした影響を少しでも与えられなければ勝つのが難しい相手です。

5.セットディフェンスの曖昧さ

これが川崎に関して最も一般的で基本的な弱点ではないかと思いますが、プレッシングの形を調整している脇坂の立ち位置によって中盤全体の役回りが調整されるからか、脇坂がどう振る舞うかでセットごとに陣形が違うことがあり、現場の選手たちは今4-4-2で組んでいるのか、4-5-1になっているのかわかっているのだろうか、というシーンが散見されます。本当であれば脇坂の立ち位置をうまく使って空いたスペースとスライドの不備を突いて中央からもゴールチャンスを作りたいところですが、今の浦和では正直難しいかなと思います。

ただ今期の浦和の強みとして、深い位置でボールをロストした後のカウンタープレッシングがあります。一度相手を押し込まないといけないので川崎相手にどこまで出せるかわかりませんが、もしも川崎のセットディフェンスの曖昧さをついてゴール前に前進できれば、一度ボールを失ったとしても、川崎の繋ぐ意識の高さも相まってカウンタープレッシングからトランジション勝負を挑むという今季の浦和のスタイルを出せる場面があるかもしれません。

川崎フロンターレを攻略する①:全体設計

ここまで断片的に強みと弱みを観てきましたが、いよいよ全体の設計に入りましょう。これまでの議論をまとめる形で、あくまで川崎を倒すための方法を考えます。

やはりまず狙いたいのは西川のフィードから相手を裏返す形になります。今季の川崎は鬼のように点を取っていますが、得点数は圧倒的な決定機創出回数に支えられている印象で、決定機を作ったら絶対に逃さない、というほどの決定力はありません。シュートが外れればゴールキックを得られますから、浦和のビルドアップの場面が一度もないというのはあり得ないでしょう。何度狙った形を作れるかわかりませんが、西川がフィードをすることを前提にまず繋ぐこと、そのうえで西川のフィードの受けてをしっかりと用意することが必要です。その意味で前節ベンチ外と休養十分のはずの橋岡の起用を期待したいですし、トップの人選にも注目です。健勇が出ても興梠が出てもそれぞれ強みはありますが、裏返して素早く攻めることや終盤のパワープレーを考えれば先発に適任なのは興梠でしょうか。ここでうまく相手を裏返し、2トップとSH、特に関根が絡んでニアサイドを攻略するか、ニアのカバーリングに出てきた川崎のCBの背後へのクロスを刺す、というのは狙い目にしたいところです。

川崎のビルドアップについては、GKはチョン・ソンリョンが出てくるとして、川崎のCBの人選は幅があるので読めません。ただ出場分数を見るとジェジエウと谷口がファーストチョイスになっているようなので、そうであれば捨てるポイントが二つ作れます。浦和のプレッシングの形は基本的に4-1-2-1-2だと思いますが、6on8の勝負までは二人捨てればなんとかなると考えて、ここは思い切って前から仕掛けてみてほしいと思います。どうせセットディフェンスで川崎を完封できるようなものはないのですから、座して死を待つならあがいてほしいところです。

そのセットディフェンスでは、いくつかのやり方が考えられます。根本的には気合いと祈りでなんとかすることになりますが、川崎を一定程度苦しめた他チームのやり方は参考になるかもしれません。

名古屋は前半から、4-4-2のブロックを基本としつつも、ボールサイドと逆のSHが最終ラインまで落ちて逆サイドのWGに対応する形で守っていました。

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フィッカデンティは最終ラインの4枚vs川崎のCF+インサイド化するシャドーのマークをはっきりさせたかったのかもしれない。それに応じて大外の対応にSHを下げるという考えかただったかも。

これによって逆サイドのハーフスペース、特にボールサイドにスライドした名古屋のボランチの逆サイド脇が開いてしまい一般的には危険なのですが、ここには中に絞ったSBが出ていくことで迎撃する約束にしていたようです。前述の通り今季の川崎のWGは逆サイド深い位置にボールがあっても開いていますし、SBも高い位置にいますから、そこにボールが入ると危険ということでこういう戦術にしたのだと思います。担当がマテウスと前田直輝なのですべてがうまくいっていたわけではないですが、結果的には川崎のサイドでの3人の連携を防ぎ、実際にクリーンシートを達成したのですから戦術の勝利でしょう。SHが落ちる5バック化はこれまで浦和も採用しており、セレッソのように中盤、前線の選手も一列下りることでエリア内を埋めていくやり方よりは実行しやすいかもしれません。

セットオフェンスについては正直あまり期待できませんが、少なくとも前向きに、相手のゴールに向かってボールを蹴っていきたいところです。名古屋がそうでしたが、もしCKを取れれば質の高いセットプレー対応は川崎であってもストレスでしょうし、下手にボールを持つよりは浦和にとっても期待値の高い攻撃と言えます。相手ボールのゴールキックでプレーが再開する場合でも浦和はプレッシング勝負から守備を始められますから、「運ぶ」がうまい川崎にカウンターを食らうよりも100倍マシと言えるでしょう。

ということで、浦和は川崎のわずかな弱み、というより構造的に仕方ない弱点に自分たちの強みを最大限に被せて戦うことが求められます。なるべく局面をコントロールし、強みと弱みの勝負を挑み続けることが最低限ですが、これがすべて上手くいっても必ず川崎の強みに自分たちの弱みが晒される場面はやってきます。その時にどれだけ戦えるか、ギリギリの攻防に耐えることが出来るかが問われるわけですが、それは今季の浦和が内容と裏腹にここまで勝ち点を積み上げてきた根本的な要素ですから、その意味ではやはり浦和は勇気をもって正面から立ち向かうことが結果的には最善なのではないかと思います。

勝ち筋としてはなるべく長い時間を0-0で耐えつつ、どこかで西川のフィードから裏返して2トップの質、もしくはセットプレーやカウンタープレッシングでゴールを奪い、その後は人海戦術でもなんでもいいのでとにかく守って逃げ切るということになると思います。厳しいプランですが、そもそも相手は最強・川崎なのです。

川崎フロンターレを攻略する②:いくつかの条件

賢明な読者のみなさん(ここまで読んでいただいてありがとうございます)であれば、ここまでの検討が非常に都合の良い前提条件において考えられていることに突っ込みたくて仕方ないのではないかと思います。正直言ってこのくらい都合がよくないと勝ち筋なんて描けないので勘弁して欲しいところですが、自覚のある部分は白状しておこうと思います。

川崎が4-3-3で戦うこと

これが最重要です。セレッソ戦でそうだったように、4-4-2で待ち構えてミドルプレスか撤退ということになると西川のフィードの効果が半減しますから、浦和は想定できる最大の得点パターンを失います。ボランチ落としでもなんでもやってビルドアップできればまだいいのですが、そんなものは出来ません。出来たらやってるよ。そうすると「じゃあ終わりじゃん」となってしまうのですが、これまでの川崎を見ていると、4-4-2が正しいとわかっていても自分たちの形である4-3-3を貫きたそうな言動を見せているという印象です。ぜひ川崎さんには浦和なんかに対策なんかしないで、思いっきり自分たちのサッカーを誇示していただきたい。鬼木監督、よろしくお願いいたします。

リードされたら終わり

同じく最重要なのがこれで、リードできれば川崎は積極的に前から追うインセンティブを大きく失いますから、ゲームを安定化させたいと思うはずです。セレッソはミス二つで逆転されてしまい、前に出るしかなくなった結果ゲームのコントロールを失い大敗しました。そうでなくても今季の浦和はリードされたゲームをひっくり返すほどのものを用意できていません(札幌戦はミシャ相手なので除外)から、とにかくリードされたら終わりです。開始3分で先制されたら、逆に開き直ってまだマシかもしれませんが。

前半ある程度うまくいって、いけるかもと思ったところで失点するパターンが一番嫌です。その意味では今季の浦和は後半の立ち上がりに失点が多い傾向があると思いますので、特定の時間帯は無難にやり過ごすということも考えたいところですが、そんな色気をだしたらセットオフェンスから普通に崩されそうです。つまり、リードされないように頑張るしかありません。

迷っても終わり

これまで検討してきた戦術は、今季これまでの浦和の戦い方同様、かなりのリスクと体力を担保にリターンを得るやり方です。本当はリスクを最小化しつつ勝ち点を取りたいところですが、それはセレッソや東京、もしかすると名古屋がやっていることであり、そんなスマートな戦い方は浦和にはできません。当たって砕けるしかないので、やりきらないと始まりません。プレスに行ったのに背後が怖くなってやめるだとか、西川のフィードのために繋いだのに色気を出してもう一回繋ぐとか、そんな中途半端なことをしてもリスクが増大するだけです。ミスが起きるのは当然なので、そんなことは気にせずに、自分たちのプランと目の前の相手を殺すことに集中すべきだと思います。これは、今季の浦和の継続的なテーマとも言えますが。

死ぬ気で守る。セットディフェンス時にゴール前で対応をミスったら終わり

マジで頼む。特に川崎はSB-CB間のチャンネルを取ってから、ニアへの速いクロスを意識させておいてマイナスで合わせるか、ファーから逆サイドのWGを走りこませる形に取り組んでいますから、こうしたパターンで簡単に失点しないことが重要です。西川頼む。トーマス頼む。槙野頼む。柴戸頼む。マジで頼む。

三笘薫の先発

これは望み薄ですが、三笘には先発してもらったほうがマシでしょう。彼が後半から出てくる展開ではおそらく止められません。DAZNが橋岡とのマッチアップを特集して15分番組を作ってましたが、できればこのマッチアップは前半のうちに済ませたいところです。三笘は出場時間に対してのパフォーマンスは圧倒的ですが、その一方で90分間相対的なクオリティを保つ強度はまだ身についていません。できれば前半橋岡が元気なうちに三笘を消費させ、後半の川崎のギアチェンジの影響を少なくしたいところです。三笘を消費させたところで、斎藤学、旗手、宮代のうちの誰かとのマッチアップになるので嫌ですが、三笘のスピードとキレ、冷徹なほどの決定力に比べれば全部マシです。橋岡がなんとかします。逆サイドの守備?ちょっと何言ってるかわからないですね。

向かい風よ、強く吹け

というわけで、いろいろと検討してきましたが、全然勝てそうにありません。それもそのはずで、消化試合数が1しか違わないのに、勝ち点で17、得失点差で40も違う相手に挑むのです。端的に言って、チームの完成度という意味ではレベルが違います。でもどうでしょうか。そりゃ10回やったら普通に9回負けそうだけど、1回はなんとか浦和のやりたいゲームになるかもしれないと思えないでしょうか。

浦和はオリジナル10のクラブですし、最初期にはひどい成績を残したお荷物クラブでしたから、Jクラブの中でも多くの負けがついているクラブです。J1で通算ワースト5位、これまでに334回も負けているらしいですが、だからと言ってゲームが始まる前から負けるつもりで挑んだ試合はないはずです。それに我々は、J通算3位の424回勝ってきたクラブでもあります。

そもそもこういう強烈な相手との対戦は、浦和の見せ場ではないでしょうか。浦和は元来、逆境に挑んできたクラブです。リーグでもACLでも、簡単に勝てそうなところに負けたり、そうかと思えば最悪の状況で勝ちを拾ったりと、強敵とのギリギリの対戦であればある程燃えてきたじゃないですか。逆境はもとより浦和の赤が輝くときですから、びびってても始まらないんですよ。ここで順当に負けたって335回目の負けになるだけです。負けそうだって嘆いててもつまらないんですよ。逆境上等、俺たちは浦和レッズなんです。何より舞台は、ホーム埼スタ。川崎の18人が強くても、浦和は7018人で戦えます。やってやりましょうよ。気にするほど失うものなんてないんです。

風車は、向かい風でこそよく回るんです。

 

というわけで、今回のチラ裏はここまで。最後までお付き合い頂きありがとうございました。