96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。 twitter: @urawareds96

2020シーズン全選手振り返り(上)

誰だよこんなのリクエストしたやつ。

 

1 西川 周作

2014シーズンに加入して以来、浦和レッズでの7シーズン目をリーグ戦フル出場で走り切った西川にとって今季は個人的な悔しさの残るシーズンだったのではないかと思います。シーズンを通しての成績はリーグ戦56失点と振るわず、それ以上にアウェー名古屋戦の6-2、ホーム柏戦の0-4、アウェーマリノス戦の6-2、アウェー鹿島戦の4-0とシーズンに4度の4失点以上での敗戦、これらを含む3失点以上の敗戦が7度と大量失点に悩まされたシーズンでした。ペナルティエリア外からの失点が9というのは残念な数字ですが、そもそもシューターに制限がかからない状態でシュートを受けている場面が多く、西川にはノーチャンスのシーンも多かったと思います。一方で、ホーム柏戦やホーム横浜FC戦等、自らのビルドアップミスからの失点もありました。チームスタイルの迷走は西川のパフォーマンスにも確実に影響を与えており、SofaScoreのデータでは自陣へのパス回数は半減、パス成功率も年々低下し3シーズンで約7%の下落となっています。ただ、ロングボールの数と成功率は過去4年間で最高を記録しており、ビルドアップの機能性を最後まで整備出来なかった大槻レッズにとっては最終防御壁としての仕事だけでなく、強引なボールの前進においても重要な役割を果たしたのではないでしょうか。
人生初のキャプテンとして難しいシーズンを過ごした西川ですが、その役割に違わずコロナ禍でスタジアムの歓声がない中、ピッチ上で最も声を出していた選手の一人でもありました。来季、リカルドのサッカーに取り組むにあたってGKを使った自陣でのビルドアップが再び求められることになると思いますが、ミシャの時代を最後尾から支え続けたベテランGKの順応は問題ないはずで、怪我さえなければ来季も全試合フル出場を目指すシーズンになるのではないかと思われます。現役選手にこの言葉を使うのはあまり好きではないですが、35歳のシーズンを迎える西川にとって来季は「全盛期のパフォーマンス」を取り戻す勝負のシーズンになりそうで、ユースから昇格し将来を期待される鈴木彩艶、石井僚とのキャンプからの競争に注目です。

 

2020シーズンMost Impressive Play :MIP

10節ホーム広島戦でのスーパーセーブ連発のパフォーマンス。

 

2 マウリシオ

守備で見せる無表情カバーリングのスピードと力強さに加え、ビルドアップではハイリスクな縦パスをぶち込み選択肢がなければミドルシュートをぶっ放し、ゴールを決めれば1m近く跳躍し咆哮するというクセの強いプレーと顔で愛されたマウリシオでしたが、今季は3試合270分の出場とプレー機会が限られ、シーズン途中にレンタルでのポルティモネンセ復帰となりました。競争の結果としての稼働率の悪さと年俸負担の重さというビジネス面の理由もあったでしょうが、彼にとってはコロナ禍にあって家族、特に生まれたばかりの次女と離れ離れの生活が続いていたので、家族と合流できるポルトガルへの帰還は本人にとっても良かったのではないかと思います。

レンタル後の去就が不透明なマウリシオですが、リカルド体制に刷新され世代交代が一層進むであろうレッズへの帰還は難しそう。ただポルティモネンセにも潤沢な資金があるとは思えず、移籍に金銭的な障壁がある場合には少々こじれそう。4バックでも3バックでも対応可能な基本スペックの高い選手であることは間違いないので浦和に復帰するとしてもポジション争いに入るだけの力はあるでしょうし、どうなるかはLet’s seeと言ったところでしょうか。本人のキャリアでは浦和が一番のビッグクラブであり、ACL優勝等タイトルを獲得した思い入れの深いクラブであることは間違いなく、どういった結果になるとしても円満な関係を維持して欲しいところです。

 

2020シーズンMost Impressive Play :MIP

アウェーFC東京戦で見せたドリブルでの相手陣地へのペネトレイト(キックオフ10秒後)。


3 宇賀神 友弥

シーズン序盤は怪我で出遅れ、山中がスタメンを張り続けることとなりましたが、ルヴァンカップ・GSセレッソ大阪戦で先発復帰すると不安視されていたインサイドに立つプレーもそつなくこなし、真骨頂である安定感と出しとけば大体何とかなる感がまだまだ薄れていないことを証明しました。

4-4-2でセットする大槻レッズの守備組織は大外対応に脆さを見せることが多かったのですが、自分の前のSHを動かし、CBの槙野と協力して安定したチームディフェンスを実現する「周囲との関係性でプレーする上手さ」では他の選手を一段、二段上回っており、やはり最後は宇賀神が浦和の左サイドに立っていました。

既に3行ブログで契約更新を報告しており浦和での12年目のシーズンとなる来季、リカルドのサッカーをやるにあたってサイドの選手は状況に応じて変化する役割をこなしていく必要があるのではないかと思いますが、チーム随一の戦術的素養、周囲のバランスを調整する能力は特にチームが固まらない序盤に重宝されるのではないかと思います。ミシャの下でWBとして代表候補になるまでにキャリアを積んだ本人も戦術的なサッカーは歓迎のはずで、左SBもしくはWBとして山中や汰木、ルーキーの福島竜弥など若い選手との競争を強いられる来季のパフォーマンスにも期待です。

 

2020シーズンMIP

「大槻さん!俺ここ?!俺ここでいいんだよね?!あいつもう…あいつもう来る気ないからさ!!」

 

 

4 鈴木 大輔

昨シーズンに加入した実力派CBは今季大槻監督の求める4バックのレギュラーとして期待され、開幕戦からスタメンとして最終ラインに入ったものの、シーズン序盤を過ぎるころにはスタメン落ちとなり、中盤以降は怪我もあったようですっかり存在感が薄れてしまったというシーズンでした。特に今季最初のショッキングな大量失点ゲームとなった名古屋戦では金崎、マテウス前田直輝に翻弄され、チーム戦術の根幹である”CBが1on1で晒されても何とかする”と言う部分で力を発揮できなかったのは痛かったと思います。大原ではプロフェッショナルな姿勢でトレーニングに臨む姿が若手選手に刺激を与えていたようで、秩序の面でもプレーでもある程度計算できる選手としての価値は高かったのではないかと思いますが、CBとしては働き盛りの30歳という年齢を考えても、ジェフユナイテッド千葉への移籍は仕方ないのかなと思います。スペインでのプレー経験がある鈴木の存在は、もし浦和に残っていればリカルドにとってはプラスかもしれませんが、リカルド本人が既に日本で十分な経験を積んでいて大きな違いにはならなそうですし、何より彼は主力としてピッチでチームを引っ張る役割が与えられた方が良いと思います。あと、ハーフにしか見えない息子くんの成長をもっと見たかったですが、シーズン終盤は家族写真があまりアップされず残念でした。

 

2020シーズンMIP

開幕戦のアウェー湘南戦でJリーグ史上初のVAR判定の対象選手となったボールかき出し(結果はハンドでPK→湘南タリクが失敗。)

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5 槙野 智章

個人的な今季のMVPの一人。開幕戦89分に守備固めで左サイドバックに投入されたことは本人にとっては屈辱的だったのではないかと思いますが、その後チームが連敗し勢いを失っていた横浜FC戦を機にスタメンを奪取。以降は持ち前の対人能力の高さと声によるリーダーシップでチームを最後尾から支え、課題と言われてきたビルドアップにおける持ち上がり、いわゆる運ぶプレーにも取り組みを見せるなど、プレーヤー、特にCBの選手としての真価を見せたシーズンになったのではないかと思います。世代交代をあからさまに意識するクラブの状況にあって、ベテランとして実力をピッチ上で発揮しつつ、橋岡をチームのリーダーとして意識づけるようなコミュニケーションも意識が感じられました。今季のチームは、中堅選手に声で引っ張る選手がいなかったこともあって、在籍9年目にして最もチームへの貢献が目立った、グループのリーダーとして最も頼もしかったシーズンではないかと思います。

例年シーズン終了後に実質的な残留宣言となる来季への抱負をコメントしていたのですが、今年はそれがなく去就が注目されていましたが、クリスマスに自ら残留を宣言。クラブからは大減俸オファー、国内外のクラブからは新規獲得オファーとかなり悩んだのではないかと思いますが、来季も浦和でプレーすることが決まりました。リカルドのサッカーは今季とは比べ物にならないほどビルドアップの要求が高そうですが、一方で現実的な順位や勝ち点を考えれば対人守備の能力が求められることも十分に考えられ、来季もただのバックアップ要因には収まらないパフォーマンスを見せてくれることを期待します。

 

2020シーズンMIP

初先発となった横浜FC戦での安定したパフォーマンスとチームへの声掛け。

 

6 山中 亮輔

浦和加入以来適正ポジションがなく、その真価をなかなか発揮できていなかったレフティモンスターにとってはようやく上昇気流を掴めたシーズンとなりました。開幕当初から4バックを歓迎しスタメンとしてプレーすると、シーズン序盤は汰木との前後のコンビネーションがチームの主要な武器の一つとして機能し、攻撃の手札が少ないチームには貴重なチャンスクリエイトマシーンとして左サイドからクロスを連発し2得点5アシストの成績を残しました。一方で4-4-2ブロックを組むうえではクロス対応の不安が露呈し、失点に絡む回数も多く良さも悪さも目立った、というのがフラットな評価かなという気がします。彼ほど攻撃的なSBを使うには今季の浦和はあまりに守備の時間が長く、また中央を閉めてサイドに置いだしていく守備組織の組み方も弱点が多く晒されることに繋がった感があり、そういう意味ではただ4バックで使えば万事OKと言う選手ではないし、逆に言えばそういうピーキーな部分をうまく使わなければいけない選手ということがよくわかったシーズンでした。

残留を明言していたかどうかはわかりませんが基本的には来季も残留し宇賀神と左SBのレギュラーを争うのではないかと思いますが、リカルドのサッカーにおいても彼の代名詞的なインサイドワークが組み込まれるかは一つ注目のポイントです。今季はインサイドに入るといっても彼自身の判断で立ち位置を決めているようなところがありましたが、リカルドが指揮することでこのあたりがどう変わるのかは注目したいと思います。セットプレーの質は相変わらずリーグ屈指なので、流れの中のプレーが整理されメリデメをうまくチームが活かし、飲み込めれば今季並みの活躍が期待できそうです。

 

2020シーズンMIP

アウェー清水戦での原理主義ミドル

CKの際相手がゾーン守備の場合はあえてアウトスイングのボールを供給し、こぼれ球に山中が合わせるという設計が上手く機能した戦術的なゴールでもありました。

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7 長澤 和輝

中盤のダイナモは今季複数ポジションでプレー。27試合出場のわりに1,716分の出場は本人としては不本意だったかもしれませんが、チーム事情に合わせて中盤のサイドと中央、時に右WBのような役割やSBに入るなど、さまざまなポジションでプレーし編成的に苦しいチームを助けたと思います。シーズン序盤はSHの一番手としてプレーし、おそらくサイドに張るのは出なく中央に入ってハーフスペースでボールに絡むことを期待されていたはず。ただホームマリノス戦や広島戦など4-4-2ブロックに対して大外のアタッカーの1on1を仕掛けてくるチームとの対戦では守備のタスクを与えられ、実質WBのような低い位置での守備に追われるゲームもいくつかありました。中盤以降はCHで起用されることが多くなり、特にエヴェルトンとのコンビで中央でのインテンシティを発揮し、ボール奪取からゴールエリア内に突入してフィニッシュに絡むなどトランジション勝負を仕掛けるチームのエンジンとして頼れるプレーを見せました。一方で今季の浦和の最大の課題であったビルドアップの面ではCHの相方や最終ラインとの関係性をうまく整理できず、またターンから前を向いて単独で相手のプレッシングラインを越えていくプレーが出なかったこともあって停滞感を打破できなかったことも事実で、今季の浦和の4-4-2と11人の人選、役割の中では帯に短し襷に長し、と言う感は否めなかったかなと思います。

29歳でチームの副キャプテンという立ち位置も含めてチームの核を担う選手でしたが、来季は名古屋に完全移籍することが決定。2017年の優勝、2019年の準優勝とACLでの大きな貢献も評価に入っているはずですが、名古屋も同じく4-4-2を採用し、しかもCHには同年代の実力者がすでにいるとあって、移籍後も競争は厳しそうです。4-1-2-3のIHが本人にとっての最適ポジションのはずで、そういう意味では川崎や神戸などポゼッションを重視するチームに入ると厄介かなと思っていましたが、名古屋でどのように起用されるのか、そして浦和でのACLの経験を久しぶりのアジア挑戦となる名古屋に還元できるのかが注目されそうです。

 

2020シーズンMIP

 

8 エヴェルトン

安定したボールスキルと球際の強さをベースにしたボールキープと攻守に走り続けられるインテンシティが武器のブラジリアンは、在籍2年目となる今季は29試合1,774分の出場。開幕から3試合はベンチ外だったものの、4節鹿島戦で先発するとその後はコンスタントに中盤中央でプレーし、柴戸、青木、長澤とともにハードなCHのポジションを支えました。基礎技術が一定レベルで揃っているのになぜか中長距離のパスだけは蹴らないという不思議な縛りプレーが一部で話題になっていましたが、今季中盤以降は中距離のパスも普通に見せるようになり、派手さはないものの信頼できるリンクマンとしてサポーターからの評価も上々だったのではないかと思います。本来であればもっと前線に顔を出していく、預けて前に出て行くプレーが得意なのではないかと思いますが、そういった面は浦和での2年間では見せきれなかったのが残念と言えば残念でした。インテンシティの部分ではどのチームと戦っても互角以上のプレーを見せてくれる一方で、長澤と同じくビルドアップで特別なものがある選手ではなかったので、今季の浦和のように超人的な仕事の多さと幅広さを求められる中ではストレスもあったのではないかと思いますが、彼がやれる範囲のプレーは良く出してくれていたと思います。やはり彼もIHが適正なのかな、というタイプでした。

オフザピッチでは敬虔なクリスチャンでSNSの投稿のほとんどが聖書の引用。物腰が柔らかくて大人しい人柄なので日本の住環境を気に入っていたと思いますが、ポルトとの大型契約があるために浦和も簡単に買い取りの決断が出来ないということなのかなと思います。本人は引き続き日本でのプレーを希望しているようですが、ポルティモネンセ復帰の噂が出ているようです。

 

2020シーズンMIP

ボールがなかなか来ないのでイラつくレオナルドのために無理めでもとりあえずボールを渡しまくる理解者ムーブ

 

9 武藤 雄樹

今季はトップで勝負!という触れ込みでフォワードとしてキャリア2度目の二桁得点を目指したシーズンでしたが、結果的にはSHとの併用となり2得点。本人にとっては思うところもあったでしょうが、やはり武藤雄樹、と思わせるボールの引き出し方や攻守における美味方のサポートといった貢献は今季も健在で、6得点で大勝したホーム仙台戦前後の今季の浦和が最も整理された戦い方が出来ていた時期に彼が2トップに入りスタメンを張っていたのは偶然ではないでしょう。バックラインがビルドアップで時間とスペースを作り出し前線にそれを届けるという仕組みがなかった今季の浦和において、興梠とともに狭いスペースでボールを受け、サイドにサポートに入り、裏を狙うことで相手のCBを動かし、無理やり最終ラインを攻略する能力を持つ武藤の存在は重要だったように思います。

一方でミシャの時代のコンビネーションが失われて以降、独力でゴールをこじ開けるにはパワー不足が目立つのは事実で、年齢を重ねるにつれて守備面での貢献やプレーの連続性は低下していくはず。そうした部分を補ってプレータイムを確保するにはやはりゴールに絡む部分を研ぎ澄ましていくことは必要で、世代交代が進む中で再びワンタッチゴーラーとして輝けるかどうかが問われそうな来シーズンです。リカルドのサッカーにおけるセカンドトップ/シャドーに求められるスキルセットは十分に有している選手なので、再び戦術的に整理されたサッカーが持ち込まれれば目に見える結果もついてきそうな予感がします。来季は明本や小泉などライバルも増えそうですが、若い選手を育てつつも土壇場で頼りになる存在になってほしいところです。

 

2020シーズンMIP

鳥栖戦のビューティフルミドル

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(中)に続きます。

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