96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2023シーズン全選手振り返り(上)

1 西川周作

37歳となった今シーズンもフル稼働の大活躍。後述するパフォーマンス、リーグ1位の27失点という結果、定性面・定量面のそれぞれで素晴らしい成果を見せた今季は2016年以来7年ぶりのベストイレブンを受賞しました。ジョアンの教えをマスターしたことでGKとしての基本動作にはさらに磨きがかかり、ゴールを守ることに関しては現役のJリーガーのみならず、歴代の日本人GKの中でも屈指のレベルに到達したのではないかと思います。僕はそんなに歴代GKのパフォーマンスには詳しくないですけど。

特に数年前まで弱点とされていたハイボール処理、クロスボール処理は強みと言えるレベルまで昇華され、クロスボールへのアタックはクロスパンチング率20.2%(リーグ4位)、クロスキャッチ率29.9%(リーグ4位)といった数字に現れており、シュートを止めるだけではなくそもそも撃たせないことで失点のリスクを回避できるようになったのは明確な進化と言えるでしょう。というかこの数字を単純に足すと上がってきたクロスの50.1%は西川が処理していることになるのですが、これって結構凄いのでは。感覚的にもそのくらいは西川がクロスを処理してくれていた気がします。

西川の場合技術的にも選手としての実績・格としても到達点が非常に高く、ほとんどポジションを譲らないので比較が難しいのですが、同じ指導を受けている彩艶や牲川のパフォーマンスと比べるとやはりステップや身体の使い方などいわゆるセンスと呼ばれそうな部分で明確な差を感じること多々でしたので、努力は当然としてこの人はそもそもめちゃくちゃ運動神経がいい天才なんだなと認識するに至った今季でした。

一方で流石に年齢を感じさせるシーンもいくつかあり、特に代名詞であったキックに関してはだんだんと質が低下しているような気がします。特に感じるのはロングキックの飛距離が落ちてきていることで、当然明確なデータを出すことはできませんが、感覚的にちょっと前は10m〜15mくらい遠くに飛んでいたかなというキックが散見されます。これは単純な筋力の問題かもしれないし、2016年のプレシーズンに手術をした膝の痛みの再発・悪化が影響しているのかもしれません。2015年も確かにパフォーマンスがよくなかったのですが、あからさまに痛がる感じではなかったし当然のように毎試合ポジションを譲る気配がなかったので手術をするほどの痛みを抱えていたことに気づくことができませんでした。柔和な笑顔のイメージがありますが彼はそういう選手なので、もしかすると今季もどこかに深刻な痛みを抱えながらプレーしていたのかもしれません。戦術的な問題なのか本人の考え方なのかピンポイントのフィードを狙う頻度も低下している印象ですし、だんだんとゴールキーピングを最大の武器とするオールドスタイルGKの方向にプレースタイルが傾いているのかなという感じもします。

記憶が新しいのと起きたことのインパクト、その結果が凄いので32節ホーム神戸戦の最終局面での攻撃参加とカウンターでの失点(実質オフサイド)、それにまつわる独断行動の是非に言及しないわけにはいかないのですが、まああれは失敗でしたね。あの失点がなければ勝ち点1を積み上げられた可能性は高かったので、結果的に浦和は3位になっていたのではないでしょうか。ただその逆で西川のセーブで拾ってる勝ち点は1どころじゃないと思うので、勝ち点1差の4位を西川のあのプレーの責任にするのは難しいと思いますけど。個人的にはあの時あの瞬間はまだリーグ優勝の可能性があったので、首位相手に勝ち点3を目指すプレーとしては理解できました。正直、リスクがあるといってもあんな風になるとは考えにくいですし。とはいえ西川としても僕としても、「リーグ戦は取りこぼさない者が勝つ戦いである」という認識が甘かったんだなと思い知らされたプレーになったと思います。あそこで西川が上がっていくのはどっちかというとカップ戦ムーブだし、それを上記のように受け入れれた僕もカップ戦のノリであの試合を観ていたし、そもそも伝統的に浦和レッズさんはカップ戦のノリでリーグ優勝しようとしている節があるよねと言われると、正直僕自身も反論できません。

さて年齢的はもう引退がちらついてもおかしくないし、引退するなら最後は大分でプレーするのが美しいのではないですかというのは誰もがうっすらと考えることですが、ベストイレブンを受賞されてしまえば文句のつけようもありません。来季も当然のごとく西川がゴール前に君臨することになるのかなと予想します。来季全試合に出場すれば現在588で歴代5位となっているJ1通算出場記録をさらに伸ばし、590の阿部ちゃん、593の中澤佑二を超え歴代3位の622試合出場に到達します。もし来季終了時点でこの622に近い数字まで出場記録を伸ばすことができていれば、翌2025シーズンには歴代2位かつ歴代GK最多631試合出場の楢崎正剛に挑む、まさに歴代最高GKの称号に手が届くところまで到達することになります。

2 酒井宏樹

全身のあらゆる部位を破壊されながらもキャプテンとして闘い続け、今季は公式戦36試合に出場し2,817分プレー。最終的にはルヴァンカップ決勝直後の11月6日に右膝半月板損傷により手術・長期離脱となってしまいましたが、出場試合数・プレータイムともに昨季よりも微増となりました。僕が勝手に名付けたビッグゲームジャンキー(通称BGJ)の異名通り大ケガをしていようとも「俺は今なんだよ」の咆哮で重要なゲームに無理やり出てくる姿は浦和レッズファンにとってはもはやお馴染みとなってしまいましたが、今年もその傾向は変わらず。もうこのスタイルでやれるところまでやり切るんでしょうね。

彼のプロフットボーラーとしての美学はそれでよいとして(リスペクトします)、試合に出る以上はそのパフォーマンスと機能性で評価しないと気が済まないのが当チラ裏です。今季も酒井はビルドアップにはあまり関わらず早い段階で高い位置を取るポジショニングをシーズンを通じて取っていましたが、これはあまり効果的ではなかったと思います。環境やら背景やら何もかもが違うレフポズナンと比べても仕方ないのかもしれませんが、スコルジャ監督がポーランドで展開していたサッカーではSBははじめ低い位置でボール回しに加わり、相手のブロックを左右に揺さぶりつつ背後を狙う基盤となる役割が課されていました。この点浦和では酒井がそういった細かい仕事を担わないために他の選手がその分の仕事を引き受けるという状況が慢性的に発生しており、その代わりに高い位置をはじめからとる酒井が崩しの局面でそういったコストがペイするほどの違いを見せていたかというと評価が難しいパフォーマンスだったなという印象でした。例えば酒井を前に置く代わりに最終ラインのビルドアップに敦樹が参加し、ゴール前でのクオリティに限らずチームのダイナミズムを体現するような特徴を持った選手を自ら後ろに残すというのが定番化した現象でしたが、これはリソース活用という意味でどうだったのかなと思います。ここ数年同じことを言っていますが強いチームのSBはビルドアップの局面と崩しの局面で二種類の仕事をこなせる例が多く、それゆえにボール保持の安定と枚数をかけた最終局面の迫力を発揮できるというのがキーポイントだと思いますので、いかに競り合いの強みや前方が開けたときの迫力があると言えども酒井の担う機能の少なさはどうしても気になるポイントでした。昨年も指摘した守備の粘り気の無さというかヤバかったらぶっ飛ばせばいい的な対応はともかくとしても、攻撃面で酒井を活かすために誰かが死ぬという構造と今後も付き合い続けると思うと悩ましいところです。

とはいえ、リーグが終了しふたを開けてみればリーグ優秀賞を受賞したうえにベストイレブン投票では57票でベストイレブンに選出された4人に次ぐDF5位を記録。ベストイレブン投票はJ1の選手・監督による投票ですから、現場の感覚としては今季大活躍を見せた並みいる名手と比べても印象的な存在ということなのでしょう。正直なんでこんなに得票数が多いのかわからないのですが、ピッチに立った人間にしかわからない凄みがいろいろとあるのかもしれません。実際に浦和のチーム内のコメントをみていてもロッカールームやピッチ上での雰囲気を作る部分で絶対的な信頼を得ていることが伺えますし、それは数多の経験を重ねた大御所選手だからこその強みだと言えます。そもそも戦術的な機能性は編成上の制約や監督の設計との相性によるものもありますし、監督が変わる来季はまた別の役割が与えられて彼の良さがうまく表現されるかもしれません。今季で言えば11節のホーム広島戦でのゴールのように、ピンポイントで発揮される質の高さは持ち合わせていますので、彼の今できるプレーとピッチ上の役割やそのカバーリングが上手く噛み合うことを祈ります。まずはゆっくり休んでください。

3 伊藤敦樹

日本代表にも選出され、日本トッププレーヤーの一人として飛躍の年となった今季はリーグ戦33試合2,713分を含む公式戦52試合3,950分の出場。将来が期待される若手の主力という立ち位置から脱皮し、チームのパフォーマンスを目に見えて変えることができるキープレーヤーとして中盤に君臨しました。特に日本代表に初選出される直前の5月31日第11節ホーム広島戦なんかは圧巻の出来で、代表候補のライバル川村拓夢との熱いマッチアップは今季のリーグ全体のハイライトの一つに数えられるのではないでしょうか。

これまでも何度か言及してきた通り敦樹の本質的な強みは球際の質にあり、単純な競り合いにおける身体の強さだけでなく高いボールコントロール技術を持ち合わせることでオンザボールのプレーに非常に安定感があるのがユニークネスです。この強みは日本代表に選出されて以来さらに磨きがかかったというか一段上のレベルに達した印象で、相手と対峙した状況、時には複数人に囲まれている状況であっても相手の出方を観察しながらプレーする余裕すら感じられました。こうした余裕は日本代表に初選出された後から特に感じたので、文字通り一段上のレベルを体感したことが要因になっているのではないかと思います。

というわけでJリーグレベルではオンザボールにおける心技体を全て持ち合わせる存在となった敦樹ですが、細かい部分では課題が浮かび上がったシーズンでもありました。まずはかねてからずっと指摘されている(というか僕がずっと言っている)オフザボールのポジショニング。特にチームの中の役割を果たすために最初に取った立ち位置をボールの位置と局面の展開に合わせて修正する、いわゆるリポジションの精度と頻度はまだまだ改善余地があると思います。スコルジャ監督がそういう方針だったのもあってチャンネルランからゴール前の局面に顔を出し直接得点に絡んでいくプレーは今季とてもよく見えるようになり、ダイナミックな攻撃への関わりは彼の特徴の一つと呼ばれましたが、その一つ前、二つ前の作りで相手の守備組織を攻撃したり前線の選手の動きを促すようなプレーはできていなかったと思います。まあこの点は酒井が特殊な役割を担っていて敦樹の仕事に影響があったり、主に岩尾と組んだボランチ二人の仕事の分担みたいなところもあったとは思うので、どこまでを敦樹の責任とするかは難しいところでもありますが。

さて、一時期はこのオフに海外移籍もあるのではという雰囲気でしたが、終盤は怪我が治りきらず万全とはとても言えないコンディションでプレーしていたこともありとりあえず今冬は残留の方向。コンディションや体力面で問題なければ、そしてオンザボールにまつわる局面であれば心技体のほとんどでJ1トップレベルとなっている存在なので、来季もプレーしてくれるのであれば浦和にとっては心強い限りです。そもそも彼の強みは海外の主要リーグの主力選手はみんな強みとしていそうなものなので、そういう意味でももう少しフットボール選手として総合力をつけてから欧州シーンに殴り込むというのもありかもしれません。それと、オフに一般の方との入籍を発表。おめでとう。

4 岩波拓也

今季はプレシーズンに海外移籍を模索したものの実現せずキャンプ途中でチームに合流する予想外のスタート。昨年犬飼が補強されたことに加えて今季はマリウスが補強されるなど、ショレの相方のCB枠はフットボール本部の重点課題となっていたのは明らかでしたし、岩波が一番自身の評価の変化を感じていたかもしれません。年齢的にも新しいチャレンジをするための時間が限られてくる頃ですし、海外移籍の画策というのは理解できます。とはいえ結局それが実現せずに実質構想外の立場からシーズンをスタートするのは非常に難しかっただろうなと思います。

今季はカップ戦を中心に公式戦22試合に出場。ただしプレータイムは1,463分のみと、これまで主力として4,000分前後プレーしていたことを踏まえれば激減。年齢的にも老け込むには早いので、来季に向けて移籍を模索するのも当然でしょう。パフォーマンスは良くも悪くも岩波だなあという感じで、ビルドアップにおける縦パス、得意の対角フィード、守備においてはシュートブロックのセンスなどは今季出場した試合でも強みとして発揮されていたと思います。ただ対角フィードは今季加入したオギがその可能性を感じられていなかったりしてもったいないシーンもありました。このあたりは岩波自身のプレータイムが多くなかったことで連携が上手くいかなかったかもしれません。

いろいろと選択肢はあったようですが結果的には古巣の神戸に戻ることに。神戸は来季ACLEを戦うので、岩波の豊富なアジアでの経験は十分に活かされるものと思います。チームとしても堅く守って前線につけるというやり方が明確ですし、岩波にとってはキックの的が上質なのでやりがいがあるのではないでしょうか。最高のディフェンダーと評価できるわけではありませんが、岩波が所属した2018年~2023年シーズンの6年間は浦和レッズにとって激動の時代であり、監督もプレーモデルも毎年変わるような状況の中で数多くの試合に出場した貢献は非常に大きく、浦和の最終ラインの一時代を担った選手であることは間違いありません。神戸でもがんばれ。

5 マリウス・ホイブラーテン

今季加入したノルウェー人CBは気品ある風貌には似つかわしくないハードワークでショレと共にチームの圧倒的大黒柱として君臨。全公式戦合計で4,660分のプレータイムは堂々のチームNo.1で、まさに絶対に欠かせない選手として1年間を走り切りました。左利きのCBとしてボール保持面の重要性をよく指摘される印象なのですが、個人的にはマリウスは岩波と同じく最後の砦タイプのディフェンダーだと思っていて、特にエリア内の本当にヤバい局面をなんとかする能力が非常に高かったと思います。相手のシュートをギリギリのスライディングで処理するプレーに何度救われたことか。ショレと共にカバーできる範囲が広い上に自分のエリアに入ってきた相手アタッカーに完全に置いていかれるシーンが少なく、表でも裏でもクリーンかつタイトな寄せで相手の選択肢を奪う技術も高かったです。ただマリウスの今季のパフォーマンスで最も凄かったのは日本サッカー・アジアサッカーへの適応の早さで、3月の時点でもうすでにショレ・マリウスのコンビは盤石でした。CBなので他のポジションよりは対応が容易だったのかもしれませんが、すばしっこいアタッカーの多いJリーグは他リーグとは結構勝手が違ったと思います。夏場は流石に顔がげっそりしていましたし疲れているなあと感じましたが、最後までよくやりきってくれました。

逆にボール保持の面では思ったより運んでくれないなというシーンがシーズン終盤に近づくにつれてちらほら。また利き足の問題なのかなんなのか左SBへ渡すパスをすごく出しにくそうにしていて、結果的にマリウスを捨てられるとその先がなくなってしまい早い段階でビルドアップが詰まる場面も。近い距離のパス交換でも一列前の選手がパスを受ける準備が出来ている場面で「もっと寄ってこい!」というジェスチャーを出していたり、西川に戻すパスも右足の方に蹴ってしまったりと細かいところでスムーズにいかないね?という印象もありました。この点で岩尾なり敦樹の最終ラインへ降りるプレーを最も必要としていたのは実はマリウスだったよねという感じもあって、今季の浦和のビルドアップが右に多少偏った原因の一端となってしまったのかなという気もします。対角に蹴っ飛ばすフィードは得意そうでしたが、序盤の神戸戦のような素晴らしいキックの本数が多かったかというとそこまででもなかったですし。前所属のボデ/グリムトではビルドアップに優れたディフェンダーだがパワーや対人対応に難ありという評価だったと思いますが、この辺りはリーグの特性との相対評価で考えるべきなんだろうなと思います。要は相手にパワー系が多ければそういう評価になるし、技術面での要求が比較的高いJでは選手の違う側面が強調されるというか。

とはいえ守備者としての実力はリーグ内で一段抜けていることは今季のベストイレブンに選出されたことでも明らか。来季指揮をとるヘグモ監督は今季よりもオープンな展開を意図的に作り出すような雰囲気を感じますし、リスクをとって攻撃的にプレーするにあたって同胞CBへの信頼と期待は極めて大きいでしょう。CWC期間中に息子さんも産まれたとのことで、家族パワーで来季も頑張ってほしいところですが、今季これだけ出場していれば勤続疲労も大きいと思いますので、大怪我だけはしないようにお願いします。

6 馬渡和彰

彼のキャリアでは珍しく2期連続で同じチームに在籍したものの、ほとんど出場機会には恵まれずにシーズン終了となってしまいました。攻撃的な選手だけあって、オフェンス時に特に内側でプレーするときのゴール前に関わる迫力や積極性が彼の武器だったと思いますが、それ以上にビルドアップや守備面での貢献が限定的だったことが立場を難しくしたのかもしれません。同ポジションの酒井との競争という意味でそのようなプレー選択になっていたのかもしれませんが、実際のところ立ち位置の取り方はともかく相手を動かしたり賢く振る舞うというよりはゴール前に関わっていく感じのプレーが多かった印象で、そうなると怪我をしている酒井と比べてもスケール感やチームでの存在感という意味で差を明確にしてしまったようにも感じます。もうちょっと違うアプローチが出来ていればよかった気もしますが、まあもともとあまり起用に振る舞う選手ではないような気もします。

浦和では期待されたほどのパフォーマンスを残すことが出来ませんでしたが、僕の印象としてはやはりフィジカル面・メンタル面で主力を張るほどのものを見せられなかった選手なのかなと思います。特に膝の状態はあまりよくなかったみたいですし、そうして出場機会が限られると、平たく言えばモチベーションの面で難しいこともあったでしょう。リカルドのサッカーとの親和性云々というよりも、攻撃的な選択肢の多い選手として高く期待されていただけに、見ている方ももどかしい2年間でした。WBであればもっと大胆に起用されたのかなという気もします。

で、来季は松本山雅に完全移籍し、再びJ3からの成り上りをスタートさせるとのこと。これまでの実績で言えば超主力級の扱いをされるでしょうから、試合に関わる中でフィジカル面のコンディションが向上して本来のパフォーマンスを取り戻すことを期待しています。

7 安部裕葵

サッカーD.B.さんのデータは少なくとも公式戦ベンチ入りを1試合はしないと生成されないので、ありません。全選手振り返りも3年目ですが、ベンチ入り1試合もなしで振り返りを書くのはこれが初めてのような気がします。ユース卒の福島竜弥や控えGKでもベンチ入りはあったと思うので、そう考えるとこれまでの浦和レッズさんは選手想いのチームなのかもしれません。

高卒で鹿島入りしデビュー後に大きく活躍、ACL制覇・CWC出場を10代で経験しバルサBに入団したところまでは良かったですが、2020年2月に右腿腱断裂、復帰直後の2020年11月に右腿筋肉の怪我、さらに2020年12月に同箇所再受傷。時間をかけて治すも2021年8月に違和感で離脱、2022年2月に右ハムストリングの手術…と腱断裂でバランスが狂ったのを長い間戻せておらず、そのまま流れ着いて浦和レッズに加入という経緯。これが懸念で浦和加入後も試合の準備が整っていないのではないかと思いますが、流石に獲得リスクが大きかったよねという印象です。万全とは言わないまでも怪我を気にせずにプレーできる水準まで戻せれば違いを見せてくれる選手だとは思いますが、結局今季も出場なしでは厳しいところ。来季は2020年2月以来実に4年ぶりのベストコンディションを目指すシーズンとなりそうです。4−2−3−1であれば2列目、4−3−3であればIHもしくはWGでプレーできる選手なので、来年の5月、6月くらいまでにハマってきてくれればいいのですが。

ピッチ上では活躍なしに終わった今季ですが、浦和レッズつらい界隈では「ひろきち」というリアルではつけられたことが無いであろうクソダサニックネームと共に躍動してくれました。写真に映るたびに顔が違く見えることを100倍くらい拡大解釈されて毎回大畑と間違われたり、歳もポジションも近い佳穂を煽り倒していそうという生意気っぽい雰囲気のみからきた妄想小ネタを大量生産されたりと本人にはとても見せられない内容ばかりですが、僕たちは面白かったのでOKです。怪我続きとはいえ日本人サッカー選手としては普通に1ランク上の選手だし普通に活躍を期待しているので、来季こそプレーを見せてください。

8 小泉佳穂

今季は試合数が多い分だけ多くの選手に印象深いストーリーがあったシーズンでしたが、その中でも個人的には最も浮き沈みが激しく、濃厚なストーリーの中で成長したなと思うのが佳穂です。公式戦47試合出場、合計プレータイム2,969分は今季のチームでは大して多いわけではないのですが、担っていた役割やピッチ上に及ぼす定性的な貢献度はチーム随一の高さだったと思います。開幕2試合は前向きのプレスを強調しまくった結果バランスがとれずに難しかったですが、その後は周囲とのバランスも見ながら、ブロックが潰れないように佳穂がこまめにそして深く押し上げることでボール非保持の局面でも相手と主導権を駆け引きすることができましたし、前向きに相手に圧をかける守備を最も意図的に実践していたのは佳穂だったなと思います。相手に外されないスピードで徐々に間合いを詰めながら苦しい選択を迫るプレッシングは他の選手にも今すぐ真似してほしい立派な技術だと思います。

一方で、ACL決勝の少し前から陥っていたボール保持面での不振はかなり厳しいものがありました。ボールを受けに下がるプレーはリカルドが4-2-3-1↔︎4-3-3の可変を行う上でIH化する佳穂の強みとして重宝していましたが、今季は下がりながら受ける局面やバックパスの場面でミスを連発し即死級のカウンターを何度も招くことに。ボールを扱う技術が生命線である選手がいきなり下手になるとは思えないので、この時期はメンタル的に難しかったのだろうなと思います。僕は「その方向」に発破をかけていた側のファンなのでアレですが、僕が使ってきた言葉で言えば「主人公」を目指す自覚みたいなものに潰されかかっていたんでしょうね。プレシーズンのインタビューでも「今季はゴールを狙う」と強調してましたし、僕たちがいうまでもなく「守備と繋ぎはめっちゃ上手いんだからあとは決定的な仕事を」という言葉は四方八方から投げつけられていたでしょう。全体像をしっかりと把握し論理的に思考を積み上げられる賢い選手なので、本人もこうした期待には大きめの自覚があるようでした。そういうところは大好きなのですが、現実に出せる結果と理想の乖離やACL決勝に向けて高まりまくるプレッシャーのなかでバランスが難しかったのかなと想像します。

ここでスコルジャ監督が諦めず、休養を取らせながらチームにうまくチームに戻したのは過密日程を戦うチームにとっても佳穂のキャリアにとっても素晴らしい判断でした。復活後の佳穂は「まずはできることをやる」という趣旨のコメントを多く残すようになり、個人の出来よりもチームのパフォーマンスにいかに貢献するかだけを考えるようにしたようでした。それによってまずは守備の部分でチームを助け、チームからの信頼と自信を取り戻す過程でオンザボールの質も戻っていくという好循環。確かに得点・アシストにおいてはこれまでとそう変わらない数字にしかなっていませんが、定性的な見方をすればシーズン終盤はレッズのフィールドプレーヤーのなかで最も安定感のあるプレーを見せていたと思いますし、何より彼なりのスタイルでチームに貢献し、トップレベルの相手に立ち向かえるという自信がついたように思います。文脈や展開を客観的に捉え、的確なことを言っていたCWCアル・アハリ戦後のコメントなんかを見てもそうした自信を感じますし、本当はこういうことが最初から見えていたし発言できたのに、ピッチ上のプレーや自らの選手としての格が足りない自覚があったことで自分らしいことを言えていなかったのかなとも思いました。苦しいこともあったシーズンだとは思いますが、最後にメンタル面で一皮剥けて、「押しも押されぬ浦和レッズの主軸」感のある選手になってくれたことは非常に嬉しい成長の一つでした。いつの間にかレッズサポーターに対しても遠慮みたいなものがなくなって、大きな舞台に怖いとか緊張するようなことも言わなくなりましたし。

とは言え来季は来季の戦いをせねばならんということで、来季どうなるかは不透明です。戦術的要素の強い選手なのでまずはヘグモ新監督の打ち出す方向性を確認しなければなりませんが、4-3-3でプレーするならIHが主戦場になるでしょうか。来季もまた得点など目に見える結果を求められることは間違いないですが、今季の人間的成長を通じて一度クリアに失敗した課題に今度はどのように取り組んでくれるのか期待して見守りたいと思います。

9 ブライアン・リンセン

公式戦37試合に出場と、出オチからスタートした昨季に比べれば登場機会が多くあったシーズンでした。ただプレータイムは試合数ほど伸びず、全試合を合計しても1,519分と主力とは言い難い結果に。開幕戦はスタメンだったのですが、1トップとしてボールを上手く収めることが出来ずに出入りの激しいゲーム展開を招いてしまい、そこに代わった興梠が上手くボールを落ち着かせたことで速攻で序列が入れ替わってしまったのはかなり切ない筋書きでした。試合数がかなり多く2列目にいろいろな選手を起用したことや1トップ頼みでは得点が伸びなかったこともあって左SHで使われたりもしましたが、サイドで1on1を打開するタイプでないのは明らかですし、逆サイドのクロスに入ってきてほしいという戦術的な意図がピッチ上で発現したのは何回だったかという感じで機能せず。プレッシングに強みがある選手という設定になっていますが、本来のポジションでなければモチベーション的にも難しいのかなと思ってしまう試合もありました。

とはいえACL2023-24アウェーハノイ戦で見せたゴールのように、鋭く入ってくるクロスを狭いスペースでしっかり合わせる技術や一瞬の動き出しは日本人選手にはなかなかない技術と感覚の良さを感じさせますし、特にオープン気味な展開や相手のマークや目線が自分に集中しない状況であればもっとシュート機会を多く作り出せるだろうと思います。オランダでどういう風に得点を稼いできたか正直よく知らないんですが、2トップで使うか両サイドが相手を崩してマークが順番にずれていくような局面で真価を発揮する選手なのでしょう。そういう意味では今季のサッカーは結果的に「マークが厳しくてもワンチャンなんとかしてくれ」というサッカーになってしまったので、そういう部分の相性も良くなかった気がします。決定力がものすごい選手というわけでもなく、重要なシュートを外してしまうことも多かったですし。使いどころが難しいだけでも外国人選手としては不利なのに、圧倒的な違いを出しにくいというのではなかなかプレータイムが伸びないのも致し方ないかもしれません。そういう意味では、どこかでギリギリのシュートをねじ込むとかしっかりPKを貰うとか、誰にでもわかりやすい結果を連続して出せる時期があるとよかったのですが、怪我もあったようですし運もなかったですね。

契約はあと一年、来季も残留見込みということで引き続き個人的には強く期待するのですが、構造的には簡単に大活躍とはいかない雰囲気。スコルジャ・レッズのサッカーよりは明らかにゴールに近いところでの崩しやゴール期待値の高いパスが出てきそうな感じなんで、本人はやりやすいと思うのですが、「上手いけど爆発してくれる感じでもないし絶対的な信頼感はない」というチーム内外での評価を覆すにはやっぱり固め取りが必要になるんじゃないかと思います。来季こそ兄貴のオフ・ザ・ボールでJ1を骨抜きにしてほしい。

10 ダビド・モーベルグ

圧倒的クネクネ度のドリブル突破もなりを潜め、最後は消え入るようにギリシャへ期限付き移籍してしまったもうやんですが、やっぱりコロナやなんやらで体調を崩してしまった影響なんでしょうか。怪我ではなかったと思いますが明らかにキレを失っていましたし、ピッチ上で監督の指示を無視して交代させられる姿はなかなかに切ないものがありました。只野想像ですけど、うまくプレーできないストレスがたまっていたのかもしれません。

結局移籍先のアリス・テッサロニキでも全く活躍できず、今後は母国クラブに戻る方針の模様。冷たい言い方をすれば素早く損切りしたクラブの判断は正しかったわけですが、サポーター人気も高かった選手なので一抹の寂しさがあります。上手くいかないときに家族と過ごせることは特にヨーロッパの人にとっては大きいでしょうから、うまく復活できるといいのですが。またどこかで会いたい選手です。

10 中島翔哉

まさかの移籍加入でドメサカ界隈を沸かせた生粋のファンタジスタ。移籍がこじれて出場機会を得られていない状況だったので獲得自体は比較的容易だったのだと思いますが、値札が凄い選手なので一体いくらかけたのかお母さん心配です。その辺はポルティモネンセのスポンサーでもあり浦和加入時にも当然のように一緒に写真に納まっていたセレモニーの会長・社長あたりが噛んでるのかもしれませんけど。

ベストコンディションとは言えない状況で合流してきているのでそもそもパフォーマンスに大きな期待をしていたわけではないですが、守備的な戦術で戦うしかなかったチーム状況を考慮しても十分なインパクトを残せたとは言えませんでした。ガンバ戦で削られて怪我をしてしまったりと不運もありましたが、格の違いを見せるようなプレーがあったかと言えば別になかったかなと思います。トップ下がもっとオフェンス面で違いを見せて欲しいというのはチームの総意だったと思いますが、日本代表の10番をつけていたころの異次元のキレとキック技術を期待するのはさすがに厳しいのではという印象でした。リーグ最終節札幌戦で初ゴールを決めたのは明るいニュースになりましたが、それでもまだ「これがあの中島翔哉か…!」というプレーは出ていませんし、例えばあと半年一年あればそれが出るのかと言うと…ちょっと疑問。

さらに追い打ちをかけるのは監督交代によるシステム変更で、4-3-3で戦う来季はWGもしくはIHでプレーすることが濃厚。WGでプレーするには全盛期のキレが必要でしょうし、IHでプレーするならビルドアップへの関りや守備の負担など考えることが多くなりそうで、トップ下で異次元の技術を見せてくれればよいというオーダーとは役割が違ってきます。敦樹は鉄板として相方には佳穂や関根などいわゆる「わかってる」タイプが使われそうな雰囲気もあるなか、大原で楽しくボール蹴ってるマンからどのような形で脱却し10番ここにありを見せてくれるのか。加入後半年はまだいいとしても一年経っても強みを見せきれていないとなると去就が怪しくなってくるので、来季の前半戦は本人にとってかなり重要になるのではと思います。

11 ホセ・カンテ

退場→主審と握手、何の脈絡のないスーパーゴール、率直で落ち着いた大人のコメント、クセの強い顔芸と幅広い魅力を僕たちに見せつけてくれたストライカー。3月加入で45試合の出場は結構な稼働率ではないでしょうか。チームトップの14ゴールは攻め手を見つけるのに苦労したチームを大きく助けました。プレータイムが2,438分と決して多くはない中で残したことも価値が高く、90分あたりに直すと0.516点と2試合に1点ペースで得点を重ねたことになります(ちなみに、リーグ戦だけに限って言えば0.55点とさらに少しだけ成績が良くなります)。長い手足を使った懐の深いプレーが特徴で、ボールタッチは別に繊細でもなんでもないんですが、なんやかんやでボールキープは結構できていたと思います。ビジョンも広めに持てており、ボールを収めたらワイドの選手をシンプルに使おうとする傾向もありました。ただなによりもシュートのフィーリングが最大の特徴で、特にゴールエリア少し外からのシュートの感覚はこれまでなかなか見たことがないレベル。高さ・幅・ゴールマウスと自分の角度関係を捉えるのが上手いんだと思いますが、右でも左でもゴール幅を広く使ったシュートを撃てるのが大きな強みだったと思います。ユンカーと違って細かいステップでどうこうというのはないのですが、足元に入ったボールもうまくインパクトできるのは凄かったです。

ただワントップの選手としてはいかんせん空中戦が強くないというか、あまり好きではないようで頑張りに欠けていた印象。落下点に入るのも全然上手くなかったので、単純に蹴っても何も起きない感じでした。例えば大迫が得意にしているバックヘッドで後ろの選手に流すとか、全部の競り合いに勝つわけじゃなくてもちょっとした工夫ができると選手としてもう一段上がった気もします。でもそこまで出来たらアジアには来なかったかも。観ていた感じ、本当はトップ下でプレーするのが好きなタイプだったかもしれません。ハイボールを収められる選手がトップにいると、その一列後ろで常に前向きにプレーすることで価値が最大化される感じがします。もしくはWGに置いて気づいたら中央に入ってきているような運用もよかったかも。浦和ではそこまで柔軟な起用は出来ませんでしたが、守備でもプレッシングに体力を使ってくれましたしゴールも決めてくれたので十分獲得したかいがあったと思います。

誰がどう見ても危険なタイミングで足裏を見せるとか挑発されたら割と素直に喧嘩を買ってしまうとか、危なっかしいところもありましたが全体的には人間性も良く日本にもすんなり馴染んでいたようでしたので、今季限りの引退は非常に残念。ギニア代表にも選出されていながらの引退は早すぎるような気もしますが、ずっと外国でプレーしていたので息子との時間のために引退するというのは説得力がありました。将来はコーチというより代理人業とかをやってそうなので、またどこかで浦和と関わるかもなと思っています。まずは家族の時間を楽しんでください。

 

(中)に続く。

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