Jリーグ地獄の15連戦も中盤に差し掛かった第6戦、ルアンカップグループステージ第4節vsガンバ大阪戦の感想です。
大槻監督の暫定組長の襲名(?)以降、親父に気合を入れられまくった結果アグレッシブさを取り戻した浦和レッズ。今節はリーグでは18位に沈み苦ピー状態のガンバ大阪のホーム吹田スタジアムに乗り込みました。
鍵を握ったサイドの攻防
今節のスタメンは下記の通り。浦和はリーグ戦で温存した戦力を中心に起用、日曜日の清水戦に先発出場した上で今節にも先発したのは遠藤航のみ。途中出場ですが長時間プレーした岩波とCBでコンビを組みました。
浦和控え:西川、宇賀神、橋岡、大城、柏木、長澤、ズラタン
一方のガンバ大阪も土曜日の試合から9人を変更。昇格組の中でも戦力的に劣る長崎に敗戦したということで、チーム状況は最悪に近かったと思いますが、出場機会の少ない選手を積極的に起用したようです。一方で、浦和から移籍した矢島慎也はベンチ外。リーグ戦に多く出場しているわけでもなく、最近はJ3でのU-23チームでのプレーが主となっていただけに今節の出場が予想されていた中では驚きでした。
ガンバの4-2-3-1に対し、浦和のフォーメーションは4-4-2。特筆すべきは4バックの採用と外国人選手の両SHでの起用ということになるかと思います。浦和の4バックは左から荻原、遠藤、岩波、柴戸。柴戸は本来ボランチの選手ですが、人員不足ということでの4バック起用だと試合後のコメントで明かしています。この判断は、最近プレイングタイムを得られていなかったマルティノスをどこで使うかを考えた際に、さすがにWBでは使えないということでしょうか。一方で彼の本来のポジション(さらに言うとナバウトのポジションでもある)WGを作る3トップを採用しなかったことは、大槻監督の2トップへのこだわりか、堀体制で3トップがうまくはまらなかったことの反省でしょうか。
前回の対戦同様、ガンバは守備時にトップの中村とトップ下の井出が並ぶ4-4-2となりました。前回対戦では、そのままSHまでが浦和の最終ラインへのプレッシングに参加し自由を奪い、ショートカウンターから一気に浦和を押し込んだ、というのが序盤の大きな展開でした。このあたりは浦和や仙台で分析担当を務めた大槻監督はもちろん把握済みということで、浦和はボランチのうち1枚を最終ラインに落とし、最終ラインは3枚でのボール回しを採用していました。傾向としては、青木が左ストッパーの位置に降りて荻原を高い位置へ押し上げる形が多かったように感じました。この場合、岩波が右サイドよりにポジションすることで縦パスに角度が付くのもメリットなのかもしれません。また、中央に残るもう一方のボランチはガンバの前線2枚の間・後ろでボールを引き出す構え。ここにボールが入った瞬間がスイッチとなり、前線から武富が降りてくることでガンバの第2プレッシャーライン4枚の間のスペースに入り込んで中央攻略orガンバの陣形収縮→サイドへの展開というのが大まかな狙いだったでしょうか。そのサイドはマルティノスが右、ナバウトが左の配置。右SHのマルティノスは基本的にはサイドに張り出しており、ほとんど動きとしては右WGに入った時と同じような形でした。一方のナバウトは、狙ってか狙わずか、武富が降りて行った2トップ左に入り込んでいました。また、頻度は少なかったですが柴戸が右サイドから中央に入って青木が降りた分のボランチの位置でボールを引き出していたのが面白かったです。
一方のガンバも、伝統芸とも言えるサイドバック魚雷戦法でサイド攻撃を仕掛けます。両SHの泉澤と藤本が起点となり、その後ろを両サイドバックのオジェソク、米倉が猛然と駆け上がり勢いでクロスを上げるという極めてシンプルな攻撃。ただし、やはりここがガンバの生命線ということでしょうか、若手主体のガンバの今節のスカッドにあって両サイドバックだけは主力のオジェソクとベテランの米倉ということで、経験豊富な二人の攻め上がりのタイミングと質は今節のガンバの選手たちの中でも抜けていたように感じました。
開始直後、攻め手が狙い通り出ていたのはガンバだったように思います。浦和は両SHがMFというよりはFWの選手だったこともあってか、守備時の陣形に苦労していました。マルティノスとナバウトは決して守備をしない選手ではありませんが、オフェンス時に高い位置に張り出したり最前線に入り込んだりしているので、帰陣、プレスバックには時間を要します。この時間の分だけガンバには両サイドでの数的優位のチャンスが与えられ、しかも浦和の両SBがルーキーとあっては恰好の餌食ということになっていました。数的な不利は青木と直輝のダブルボランチがスライドしてなんとか対応できますが、泉澤/オジェソクvs柴戸、藤本/米倉vs荻原で質的に不利を強いられたのはなかなか苦しかったと思います。実際、柴戸はペナ脇の1対1で泉澤に完全に躱されてシュートを許してしまいました。
ガンバとしてはこの優位性をベースに先制点を上げたかったところでしょう。残念だったのは、サイドの組み立てに中央の選手が有機的に絡めていなかったことでしょうか。井出は足元の技術の高さは見ていても感じますが、ボールへの関わり方というか、関わってからの周りの使い方というか、彼に入ったところからの広がりがなかったのは残念でした。またトップの中村敬斗も、オンザボールのタッチの柔らかさには非凡さを感じずにいられませんが、プロレベルでの飛び出しのタイミングやスペース管理、相手DFからのチャージへの対応は勉強中という感じで、浦和のリオ五輪CBコンビに完封されてしまいました。そういえばこの試合、両チーム多くの控え選手が出ていたため印象的に薄くなってしまいがちですが、岩波と遠藤というリオ五輪CBコンビが浦和最終ラインを率いたという意味ではとても重要な試合だったかもしれません。ここ5年近くほぼ固定したメンバーで戦ってきた最終ラインにおいて、新世代バックスのみの構成で公式戦を経験できたことはチームにとって非常にポジティブだと感じました。
徐々に噛み合わせを見つけていく浦和
ガンバのサイド攻撃があと一歩で決定機にならない中、攻撃の狙いを表現していきたい浦和でしたが、選手構成もコンディションもルヴァンカップ仕様ということで、浦和は浦和でボールを運んだ後に問題を抱えていたようでした。最も印象的な問題点は肝心の両SHとSBのファイナルサードでの連携について。右サイドのマルティノスは大きく張り出すことでWGとして振る舞いましたが、サポートの柴戸の距離感が上手くなかったか、またオジェソクのマーキングに苦しんだか、フラストレーションを貯め込んでいたようでした。20分には浦和が最終ラインから直接マルティノスに当てたところを泉澤とオジェソクに挟み撃ちにされ、そのままオジェソクにゴール前まで運ばれると落としたボールを井出に蹴り込まれポスト直撃のシーンを作られています。
また、左サイドでは、上記の通りナバウトのプレーのベクトルが中央に向いていたことから、前に出ていきたい荻原とのコンビネーションがなかなか生まれませんでした。荻原を活かすという意味では、ナバウトにはサイドで一度起点になってもらい、往年のレドミ+酒井宏樹/橋本和的なオーバーラップを期待したのですが、ナバウト自身がゴールの近くへ入り込んでいきフィニッシュしたがったせいか、なかなかそのような連携を見ることはできませんでした。というわけで、浦和は前線のナバウト、武富、李、マルティノスがそれぞれの個性を最前線で発揮するものの連携はあまり見られず、ダイレクトでプレーしたボールが上手く収まるかどうかという形で前半を進めていきました。
そんな浦和も、時間の経過とともに少しずつ連携をとって相手を崩す素振りを見せ始めます。代表的なシーンは36分、上記の3枚回しから高い位置の荻原へとつなぐと、米倉の裏のスペースへ流れたナバウトへパス。ナバウトがコーナー付近から折り返すと、長い距離をインナーラップしハーフレーンを攻略した荻原へ荻原のクロスは間一髪でガンバCB菅沼が対応しディフレクション。あわやのボールがゴールポストをかすめました。ガンバの4-4-2守備が緩かったのが面子のせいなのかクルピのチーム状況を表しているのか不明ですが、ガンバの守備は特に4-4-2のセット時にハーフスペースに入られるとプレッシャーが遅れがちで、浦和は前半終盤から徐々に再現性のある組立とファイナルサードへの侵入を確立していったように思いました。
盤面の整理で優位に立つ
後半、ガンバは藤本に代えて飯野を投入。レッズは12分に荻原に代わって宇賀神が実戦復帰。さらに柴戸に代えて橋岡を投入し両SBを交代させます。これらの交代について大槻監督は、「両SBが相手のサイドのパワーを抑える必要があり、両SBが疲弊すると全体が押し下がってしまうので、スタミナ面を考慮して代えてあげたかった。マルティノスとナバウトには後ろが若手であることを考慮してプレーさせたが、前線にパワーのある選手なので切り替えで後ろの若手が晒されるケースが見えたため、早めに交代させた。」とのコメントを残しています。大槻監督就任以来、前半の勢いに比べて後半は運動量が落ちたところを攻略され、手当てのために全体が下がって守備をせざるを得なくなり、最後はゴール前に張り付く展開が多くありました。これまでの傾向を踏まえて今節の肝である両SBを早い時間帯で思い切って交代させた大槻監督の的確な采配だったと言えると思います。
さらに浦和は、両SHの配置をチェンジし、左SHにマルティノス、右SHにナバウトとしてゲームを進めます。橋岡-ナバウトの右サイドの連携はさすがに難しかったようですが、宇賀神が後ろでフォローするようになったマルティノスは左に入って以降、試合終盤に連れてガンバの脅威となっていきました。直後の24分、左のマルティノスで攻めたやり直しからボランチの青木までボールが戻ると、青木から中央で最終ラインの間で待っていた武富へ縦パス一閃。トラップで前をむいた武富をエリア内で菅沼が倒しPKを獲得。先制に成功するのでした。
ガンバの最終ラインとしては、そんなに焦って武富を倒す必要は無かったかなと思いますが、青木の縦パスがあまりにも強烈だったのでしょう。ゴール方向ではなく利き足でない左足側に向かっていた武富を倒してPKはもったいなかったかなと思います。それにしても、やはりマルティノスは左でのプレーの方が良いのではないでしょうか。右サイドでもロングカウンターでのスピードと左足のアーリークロスの精度は脅威となりますが、左のほうが全体のリズムに貢献すると思いました。おそらく左サイドでは独力で縦に抜きにくいので、中の選手に預けて縦に走るプレーや後ろに戻すパスが出しやすいことが遠因かと思います。先制点のシーンは青木のパス、武富のトラップ、ガンバDF陣の焦りが大きな要因であることは間違いありませんが、一連の展開は左に入ったマルティノスの攻撃のやり直しから生まれたというところも押さえておきたいと思います。宇賀神や武富のサポートがあってこそのパフォーマンスであることは言うまでもないですが、切り替えして中に入ってからの右足のクロスでもあわやのチャンスが作れていたので、今後もマルティノスは左で観たいと思いました。
その後は同点を目指して圧力をかけるガンバの若い衆をCBのリオ五輪コンビを中心に浦和が弾き返し、拾ったところから直輝を起点に浦和がカウンターを狙う展開。中央で拾ったボールを確実にチャンスに繋げられる直輝と、後半相手が前掛かりになった裏を鬼ダッシュで単騎攻略できるマルティノスのコンビはリーグ戦でも使えると思うのですが、大槻監督の考えは如何に。ガンバは中央でリズムを作れなかった井出に代えて高木彰人を投入しますが不発。頼みの綱の両サイドバックも前半からの上下動の疲労からか後半はサイド攻撃の精細も欠いてしまいました。また、審判とのコミュニケーション、時間の使い方等の面でも浦和の準レギュラークラスの選手たちに一日の長があったか、ガンバの選手たちは家本主審の判定にフラストレーションを感じているように見えました。44分、45分と続けざまにマルティノスに対するファールした米倉が2分で2枚のイエローカードを受けて退場すると、ガンバ大阪は万事休す。後半の交代策やポジションチェンジで盤面を整理した浦和が、吹田スタジアムでの初勝利を手にしたのでした。
ルヴァンカップらしい試合、そして訪れる”大槻浦和組 THE LAST”
試合を振り返れば、緻密な戦術戦というよりは個人の能力のぶつかり合いという様相で、結局のところ岩波、遠藤、青木、直輝で中央を固め、両サイドに外国人を起用した浦和が能力値で殴り勝ったようなゲームかと思います。浦和としてはここ数年はミッドウィークにACLを戦うことが多く、ACLの基準で戦力を整備していることもあってか、やはりJクラブとしては層の厚さがあるのだなと感じました。またその能力値を最大化できる配置を試合前~試合中に構築していく大槻監督の手腕はやはり信頼に値すると感じました。ガンバは特に中央の井出のパフォーマンスがもったいないというか、前回対戦時のアデミウソンの存在感と比べてしまうと、、、という感じでした。
この勝利で、なぜか名古屋に今初黒星を付けられた広島を躱してグループ首位に立った浦和。浦和にとっては、柴戸、荻原、福島といった多くの若手選手や、出場機会の少なかった選手が出場機会を得ている中でグループステージ突破に優位な位置につけたという意味では非常に大きい勝利ではないでしょうか。最悪の状態から大槻組長の下なんとかここまで立て直すことに成功したと考えると、大槻監督の手腕は恐るべしというほかありません。
ここまでの公式戦5試合を4勝1分けと圧倒的な団結力を見せている大槻浦和組でしたが、クラブは本日4月19日、ついに正式新監督として鹿島でリーグ3連覇を成し遂げたオズワルドオリヴェイラが決定したと発表しました。ということで、5年半の長期政権の間に現在の主力の多くを獲得し、ACL優勝チームの基盤を作ったミシャとの再会の一戦は、大槻浦和組解散の大一番となりました。はたしてどんな試合になるのか、連勝中の札幌ミシャサッカーvs無敗の大槻レッズだけでも面白いのに、”大親分”オリヴェイラの観戦が予想される大槻監督最終節、なんだか全員集合最終決戦的な高まりのある土曜日の埼玉スタジアムでは、異様な雰囲気を味わえそうです。
今節も長文にお付き合い頂きありがとうございました。