96のチラシの裏:浦和レッズについて考えたこと

浦和レッズを中心にJリーグの試合を分析的に振り返り、考察するブログ。戦術分析。

2022シーズン全選手振り返り(下)

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24    宮本 優太

ルーキーイヤーで公式戦22試合の出場はならば浦和の大卒1年目としては良いシーズンだった部類に入るんじゃないかと思います。同期の安居がほとんどプレータイムを得られなかったこと、同じポジションのライバルが酒井宏樹、馬渡和彰であることを考えると望外に出場機会を得られたと言えるでしょう。ただ内容的には厳しいものが多かったシーズンでした。

当然思い出されるのは26節セレッソ戦のリスタートお膳立て事件で、あれはチームからかなり怒られたみたいです。あのミスから本人がメンタル的にかなり落ちたであろうことは想像に難くありません。ただその前からプレー内容はあまり良くなかったので、あのミスどうこうでなくともパフォーマンス的には期待とは違うシーズンとなってしまいました。彼のパフォーマンスについて何が悪かったかを考えるとき、2つの疑問があります。リカルドが宮本をどういう選手だと思っていたのかということと、宮本本人がどういうプレーで勝負しようと思っていたかです。

リカルドは昨季、宮本を内側に立たせるどころかIH化させて前5枚としてプレーさせてる時期が長かったのはガチ対話で振り返った通りです。宮本が序盤プレータイムを得ていたのは5月21日の第14節ホーム鹿島戦~7月2日の第19節アウェーガンバ戦のあたりで、ちょうどチームとしても松尾・佳穂のプレッシングともうやん・OKBのドリブラーを活かすベストメンバーを見つける直前でした。チームのやり方自体がうまく機能していなかった時期ではありましたが、相手陣内のハーフスペースでボールを受けても何をしていいかわからない感じでシンプルに困っている宮本を見るのはまあまあつらいものがありました。もともとボランチの選手ですがターンが上手いわけじゃないので、それが体力を活かす方向でのSB転向の理由だとするとそんな選手にIH仕事をさせるのは厳しかったなと。まあ、これはそんな起用・戦術を採用していたリカルドの問題であって宮本の問題かというとちょっと違うかもしれないのですが。

もう一つは宮本自身の話かつ彼のキャリアを考えるうえで大テーマになりうるもので、彼自身が自分をどういう選手だと思ってるのかは根本的に気になりました。本人は交流もある長友への憧れを何度か口にしているし、体力お化けで上下動の豊富な小型SBとしては近いものがあるかもしれません。ただ、その他の要素は決して長友と同じタイプではないのではないかとどうしても感じてしまいます。例えばインテル時代の長友を見ると跳ねるように芝を蹴っていて尋常じゃないバネを感じさせます。ボールや局面への反応も速く、基本的には身体能力が高いのが長友の特徴です。一方宮本はどうかというと、長距離はめちゃくちゃ走れるけれど瞬発力に特別なものは感じません。突破のキレを見ていてもウガみたいな初速が速いタイプでもなさそう。となるとそもそも長友のような前線に絡んでいくプレーは同じようにはできないのではないかと思います。加えて最も違うのはゲーム中のメンタリティで、長友のあの好戦的な前ノリ感はまだ宮本からは感じたことがありません。それどころか昨季の宮本は悪い意味で周りを気にしながら隙間隙間に入っていくようなプレーをしていて、自分の特徴を前面に出しているようには見えませんでした。リカルドのやり方に合わせていたんでしょうが、体力自慢の割には思い切って前に飛び出していく回数も多くなかったです。

長友のように何度も上下動ができるSBになるという目標自体は全然悪くないと思うんです。一方で、長友のような仕掛けの能力や瞬発力、エリア内でなぜか仕事をしてしまうような大胆さは簡単に真似できない気もします。それよりは、元々ボランチだったことや大学時代に見せていたプレーからして、最終ラインと3列目を行き来しながら組み立てに関わり、アシストの一つ二つ前のパスを前線に供給するタイプの役割は担っていけるんじゃないかという勝手な期待感があります。こうしたスタイルに何度も上下動できるスタミナをベースとした高頻度のオーバーラップが合わさればかなりユニークな選手になれそうではあるんです。そういうわけで内田篤人のようなSBからの組み立てを勉強したら凄くロマンがあると思うのですが、そもそも本人がどういう選手になろうとしているのか、何を自分のユニークネスとするのかというところが昨季のプレーから見えにくかったのは結構残念でした。

ところで、宮本はすでにKMSKデインズへの半年間のレンタルが発表されています。海外経験があまりなかった選手だし浦和でキャプテンをやりたいと公言していたので海外はあまり興味ないかと思っていたのですが、武者修行で色々経験したことが刺激になったのかもしれません。馬渡の残留で右SBは引き続き実力者2名体制なので、まともにやったら3番手になる選手をレンタルに出すのはクラブとしても悪くない気がします。ただ酒井も馬渡も二人とも試合に出続けてくれる選手ではないので、いきなり右SBがスクランブルというリスクもなくはないのですが。宮本本人としては自分の特徴を出さないとやっていけない成り上り上等プロサッカー文化に一度染まるのはいいことなんじゃないかと思います。レベルはあまり高くないかもしれないけど、それだけに自分が違いを見せないといけない部分もありますし。リカルドよりはオーソドックスなサッカーをしそうなスコルジャ体制の方が彼にとってはやりやすいかと思っていたのですが、まあこういう選択肢でもいいのでは。マジ頑張れ。

25    安居 海渡

加入前の評判は大学ナンバーワンレベルですぐにプロで通用するとも言われていたのですが、ルーキーシーズンは全くと言っていいほど出番をもらえませんでした。リーグ戦は6試合127分、公式戦全体でも383分のみの出場は完全に思ってたんと違います。チーム内での評価はめちゃくちゃ高くて、いろんな選手が期待の若手に名前を上げていたんですが。

リカルドが6番タイプのボランチに岩尾を使えてしまうことで序列・競争が難しくなったと言うのは当然あったのでしょう。信頼感の部分ではさすがに勝負できません。あとはもしかしたら、安居は割とシンプルに前にボールを供給していくタイプなのでリカルドのイメージからすると作り出すリズムが速すぎたりしたのかもしれないなと思います。観ている方としては、というか個人的にはリズムよく前にボールを出していく方が好きなんですが、こればっかりは監督の好みが優先されて当然です。そしてこれに関連してポジショニングの考え方として、流経大時代から安居のプレーはアンカーの位置から始まってボールを出し入れしつつ、最後は自分も前に出ていってプレーする、いわば6番をやりながら8番になる動きを得意としていますが、リカルドからすれば6番は6番で中盤の底を空けないでくれ、という感覚があるのかなと思います。自らの立ち位置を含めた盤面のコントロール能力、全体のバランス感覚の共有と信頼感で岩尾と勝負は厳しかったですね。もしくはリカルドに個人的にめちゃくちゃ嫌われたか。

で、気になるのは来年はもう少しチャンスがありそうか?という部分。なんとなく、スコルジャ体制では岩尾よりも序列が上になる可能性を期待してもいいのではと思います。ビルドアップも重要ですが、特にプレッシングで前線についていって中盤を押し上げられるかはボランチ選びにあたって重要になりそうというのがその理由で、全体的にプレッシングはリスク高めでも頑張らせる方向になると思うので、飛び出していく前線に中盤がついていけないと組織が崩壊します。ビルドアップはともかく、前に前に出て行く部分では岩尾よりもさすがに安居のほうが優位かなと。セットディフェンスにおいても広いカバーエリアを担当して球際勝負にも勝たなければいけないと思うので、普通に考えれば柴戸と安居はけっこう評価されそうです。

そうすると柴戸と競争になるのかな?とも思いますが、もしくは層が薄い敦樹の方の役割を担うというのもあるかもしれません。ACL・GSで見せたようにミドルが撃てる選手だし、前述の通り6番からプレーをスタートして8番に上がっていく「全部やる」系のプレーは安居の真骨頂。全体的に前重心でゲームをデザインしていきたそうなスコルジャ体制では安居のプレーは重宝されそうな気がします。

何にせよ実力・経験・実績を備えた浦和の選手たちがこぞって評価するポテンシャルは間違いないと思いますし、来季こそ活躍が見たいところ。正直リカルドにここまで干された理由はわからないですが、ピッチの外と違ってピッチ上ではかなり頼もしいプレーをする選手なので、そこそこのプレー機会さえあれば大丈夫だと信じてます。マジ頑張れ。

26    木原 励

ここ10年の浦和では珍しく高卒で昨季加入。ルーキーイヤーとなった昨季ですが、プレータイムはACLグループステージでの途中出場だけと全くと言っていいほど露出がありませんでした。顔がいいから露出があれば売れそうだったんですが。

唯一の出場となった ACL・GL第6節の山東泰山戦では短いながらCFでプレー。面白かったのは意外とCFとしてこだわりがありそうなプレーをしていたことでしょうか。もっと流れたり降りたりするタイプかと思ったら、上田綺世の動きだしをひたすらオマージュしてたのでちょっと意外でした。あのボール側に体を開きながら半月状に膨らんで裏に抜けるやつは鹿島のFWが代々受け継いでいる印象なんですが、後で出たインタビューでは実際に上田を参考にして練習してるってコメントもしていました。高校時代、徳島の西野太陽とプレーしていた時はセカンドトップ気味で、結構降りてドリブルとかしてた印象だったんですが、先輩である西野が卒業してからはCFとして勝負を決めるプレーをするように意識づけされていたようです。

そんなわけで公式戦のプレータイムは皆無でしたが、身体も1年かけて厚くなった感じがするし、露出はなかったけど成長はあったんじゃなかろかと思います。そもそも高校時代の実績は正直地味だし、ポテンシャル採用というか素材として獲った感は強かった選手なので、19歳でいきなりJ1の舞台に立てなかったからと言って悲観する必要は全くなし。まあ、浦和がそういう獲得をして大丈夫なのかという話はあるんですが。

というわけで、来季はJ3長野へレンタル移籍。本格的にプロサッカー選手として継続してプレーするリズムを経験し、選手としての実績積み上げを目指すことになりそう。 たくさん走るチームらしいので、得点もそうだけどいろんな仕事ができる選手に成長してほしいです。浦和はこの先しばらくCFへの要求が色々と厳しくなっていきそうだし、数年後に浦和で勝負となると相当プレーの幅を広げないといけないかもしれないので。

エリア内の動きだしは5月の時点で結構サマになっていたし、じっくり期待します。頑張って。

27    松崎 快

えっ、いたっけ?いたよ。やめとけ。実際、昨季のリーグ戦後半17試合のプレータイムが131分とほぼプレーしていないし、全公式戦合計でも612分しかプレーしていないので印象としては薄くなってしまいます。安居もそうですがリカルドに何をすればこんなに干されてしまうのかってくらい干されていました。もうやんがプレーできない時期とか、もう少し試してみてほしかったんですが。

シーズン序盤はレギュラー格としてプレーしていたように見えるし、いくつかかなり惜しいチャンスを決められなかったけれどプレータイムあたりのG+Aの数字は悪くないんですよ。リーグ戦全体のプレータイムが369分しかないのでアレですが、それで1ゴールなので0.244。数字としては佳穂とか敦樹と同じくらいで、質的に通用しなかったということではないと思います。

じゃあなんで出場機会が増えなかったのか?これは難しくて、選手によっては公表しない怪我を抱えている場合もあるし、コロナの影響があったかもしれないし。練習態度とかで心象が悪くなる場合もあるから外からはなんとも言えません。フランクフルト戦で久々にプレーを観ました感じ、もしかしたらプレッシングとか単純に闘う部分とかで評価が低いのかな?と思う部分はありましたが、確信的には言えません。

とはいえ、昨季台頭した大久保やエース級の活躍をしたもうやんと比較するとなんとなく感じる部分がないわけではありません。同じ左利きのドリブラーでキャラは被りますが、松崎はどちらかというと静止から剥がすというよりターンから仕掛けるのが得意なタイプ。張って1on1を待つよりもライン間でボールを受けてターンからゴリゴリ突っ込んでいく方がイキイキしてる気がします。その点OKBやもうやんは静止からの1on1ができるTHE 仕掛け屋って感じなので、リカルドのやりたいサッカーに向いてるのはこの二人の方だったということかも。

そんなこんなで期待と全く違うシーズンを過ごしてしまった松崎。レンタル含めて移籍の噂もあったようですが、どうやら残留の可能性が高そう。少なくとも2年契約でしょうし、昨季序盤のパフォーマンスを考えてもクラブが全く使えない選手と考えているということはなさそう。監督も変わるし夏まで勝負してダメなら夏に整理っていう考え方かもしれません。

スコルジャ体制にフィットするかどうかと言う意味で言えば、他のドリブラーよりも得点に関わっていく意識が強いので、監督が気に入りそうなタイプではあります。ただ右サイドをやるならもうやん、OKBとの勝負なので、普通に考えれば簡単な競争でないのは明白。いっそのことトップ下という考え方もあるかもしれないけど、そうすると今度は本業FWの選手たちとの争いが待っています。当然プレッシングの強度とか球際の戦いとか、走れるか・闘えるかというのも見られそうですが、最初から諦めるほどの状況ではない気もします。もうやんの稼働率の話もあるし、チャンスが来た時にどんなインパクトを残せるかどうかが重要そう。これはまあ、誰でもそうなんですが。

「ここまでの自分の結果には納得していません。正直、今も昔も毎日のように危機感を抱いています。最終局面で違いをつくり出すところに、僕の価値があると思っています。いままで以上に結果に関わる仕事をしていかないと、プロの世界で生き残っていけません」

u.lin.ee

頑張れ。

28    アレクサンダー ショルツ

彼のことを何て表現すればいいのか適切か全くわかりません。神?神というよりは仏、カバーリングとビルドアップに優れた仏。でも洋服の着こなしは基本ダメなのでサラリーマンにはなれなさそう。サッカー選手じゃなければ木こりかメタラー。何の話ですか?

今季はあらゆるコンペティションに出場しまくり累計プレータイムは4,000分越え。なにはともあれこれだけ稼働し続けてくれて感謝しかありません。ディフェンス面の最強さ、ビルドアップの安定につながるボール保持・持ち運びに加えて、PKキッカーとして6得点で失敗なし。文句がない。このパフォーマンスでベストイレブンに引っ掛からなかったことは本当に申し訳ない。シンプルにチームとしての結果が足りなかったことが原因です。ごめんなさい。まあ、僕は謝る立場でもないしショレはチームの結果が出なかったのは自分の責任でもあると言うでしょうけど。プレー以外では着実に日本語を覚えてくれて完璧にチームと日本文化に馴染み。メディア対応も丁寧で好感度は高まるばかり。もはや終身契約をさせていただきたいレベルの信頼感があります。

怪我さえなければ来季もショレのパフォーマンスは間違いないということで、問題は相方選びになりそう。岩波はカタール・アルサッドへ移籍するものの代わりに元ノルウェーU21代表のマリウス・ホイブラーテンの加入が決定済み。スコルジャ体制へのフィットを考えると、岩波→マリウスは完全にアップグレードになりそう。左利きでビルドアップが得意、スピードがあってハイラインに耐えうる選手で、岩波の弱点だった部分が長所に変わるようなもの。バックライン自体はかなり強くなるでしょうし、スコルジャ監督の指向性にも合致します。

ただ、外国人CBコンビはコーチングやコミュニケーションの部分でどうかという心配も。周りでプレーするGKやSB、ボランチは日本人しかいないポジションなので、守備対応の中心となる二人だけが外国人選手で日本人をどう動かすのか?見たいな話は来季出てくるかもしれません。まあ二人とも隣国とは言え海外でのプレー経験はあるので、英語での指示出し、コミュニケーションは問題ないと思いますけど。周りが上手く呼応できるかみたいなところは懸念材料かもしれませんが、能力的にはリーグでも抜けたCBコンビになるでしょうし、いくつか試合を見ている限りはスコルジャはバックラインはまず人をしっかり捕まえて対応することを求めている感じもするので、守備組織どうこうよりも強烈な個人能力をバックラインに手に入れられることを喜べばいいかもしれません。

そんな中でショレ個人の来季に何を期待するかと言えば、怪我なく過ごしていただき、日本文化を楽しんで、健康で文化的に4,000分プレーしていただければそれで十分です。来季こそベストイレブンにショレの名前を入れましょう。この選手が日本のキャリアで個人賞をとれなかったら嘘と言うか恥です。クラブの恥。

33    江坂 任

2021年夏に加入なので浦和でフルシーズンを戦ったのは2022年シーズが始めて。公式戦43試合に出場して2,600分のプレータイム。43試合出場は印象より多いものの、そのわりに2,600分は少ない気もします。昨季の江坂はフル出場が多くありませんでした。前線の選手だから試合中の入れ替えは常ですが、特に後半戦はベンチを温める時間も結構多くなりました。2021年シーズンの後半戦は0トップ起用も含めて試合あたりで多くのプレータイムを得ていたことと比べると立場が悪くなったシーズンと言えるかもしれません。

昨季のパフォーマンスでいえば、正直、雑に感じるミスはかなり多かった印象でした。またセットプレーの得点機会を昨季はことごとく外してしまったのも痛かった。うまい合わせでシュートは枠に飛んでいたにも関わらずスーパーセーブにあったり、運もなかったかもしれません。リーグ戦1,939分に出場して2得点のみというのは江坂の実力と実績を考えるとかなり物足りないのが正直なところ。リーグ戦における90分あたりのG+A数は0.139とかなり悪い数字でした。これは前線の選手としては関根に続いて2番目に悪い数字で、敦樹や佳穂、明本どころか松崎よりも明確に下です。アシストが上手くつかなかったというエクスキューズはあるかもしれませんが、持っている得点に係る技術、特にアシストの能力からすれば、期待通りとは言えません。

パフォーマンスが上がらなかった理由を考えてみると、そもそも、0トップ向きの選手ではないというのがまずありそうです。動き直しの回数が多いかというとそうではないし、収めるのは上手いけれど一発で彼に預けられるかどうかだけのサッカーではさすがに難しいでしょうし。あとはリカルドのシステムとの相性で、すごく悪いわけではないけど、例えば佳穂が降りてビルドアップに加わる場面なんかでは前線で孤立しがちになってしまいます。一度江坂に当てて前を向いてもらって、周囲の選手が飛び出す形を作れれば彼の能力が発揮されますが、前線の選手が降りてビルドアップに参加する状況では必然的に江坂が使える選手が周りに少なくなります。柏時代にオルンガを、浦和ではキャスパーに供給するパスが素晴らしかった江坂ですが、彼自身がトップで出場することになると江坂のパスの出し先がどうしても減るというのはあったかなと。そもそもトップ下で出場してポジティブトランジションの流れから味方FWへ一発刺すのが強い選手だし、個人で何枚も剥がして曲面を打開するプレーがあるわけではないので、とりあえず江坂に当ててなんとかしてもらおうというのはちょっと要求が厳しかった印象もあります。

この辺りのもどかしさがシーズン中にちょくちょく出ていた不満そうというかモチベーションの低下を感じる振る舞いにつながっていたのかもしれないなと思ったり、思わなかったり。自分のプレーが出しにくい環境・構造になっていれば選手は敏感に感じるでしょうし。江坂の場合、そもそも論として期待したよりも2022年シーズンのリカルドのサッカーがクローズド思考で動きが少ないことの方が面白くなかったかもしれませんが。やっぱり局面の移り変わりが多いゲームの方が楽しめそうな選手かなと思います。

もう一つテーマだったのはプレッシング・プレスバックの貢献度でしょう。正直これはよくわからない部分もあるのですが。2021年シーズンの後半も江坂ー佳穂コンビはよく組んでいたし、正直そこまで大きな不満はなかった記憶です。キャスパーと組んだ時の怪しさは感じましたが、正直キャスパーの方の責任が大きいのかなという印象でした。ただ今季はあまり良い印象がありません。佳穂のプレッシングのうまさが今季さらに向上したのもあるでしょうし、佳穂・松尾と走れる二人、戻れる二人との比較になってしまったとしまって江坂・キャスパーのコンビが目立ってしまったということなのかもしれません

そもそも、「全員で守備をする」というと聞こえがいいですが、ポジティブトランジションで誰がボールを収めてみんなが上がる時間を作るの?という話もあるからなんとも言えない部分があります。江坂が前残りしてボールをキープしてくれて助かるという場面もありました。やっぱり江坂の理想で言えばある程度守備のリスクを負ってでも江坂+1は前で構えてカウンターに備えるやり方が心地よいだろうし、そういう環境を用意しないという意味でリカルドとは相性がよくなかったかもしれません。

個人的には彼のゴールに関わる能力はスコルジャ体制で活かせそうだと思っていたので、今季蔚山現代へ完全移籍することになったのはかなり残念。スコルジャはある程度リスクを許容してでもゲームを動かすでしょうし、前線も1トップ+2列目の3枚は流動的に中央でプレーする傾向があるので江坂のパスコースも増えただろうし、創造力や技術は武器になるだろうなあと思っていました。本人としては年齢を考えても海外を経験するならラストチャンスだろうし、オファーがあった中で選んだことなのでしょうけど、シーズン序盤のインタビューでは「海外は考えない」とか言ってませんでしたっけ、と思ったり。

ちなみに、移籍する際のコメントが思ったより悪くなくて円満に近い形で退団する雰囲気を出してくれたのは不幸中の…幸いではないけどまあ良かった部分。本当のところは知らないけれど。すごく好きな選手だったので浦和でプレーを見せてくれて嬉しかったです。頑張って。

40    平野 佑一

2021年夏に加入して以来「いつそこを見てた」系のパスができるボランチとして、そしてクラブの動画コンテンツで不思議な踊りをする人として熱い人気を博している中堅ボランチ。個人的には水戸時代から相手を見てプレーすることがちょっと他に例がないくらい上手い選手としてお気に入りです。

2021年は加入以来ほぼ即戦力としてシーズン後半戦で活躍しましたが、昨季は3月6日の第3節ホーム湘南戦で負傷交代、ACL・GSで復帰するもそこからプレータイムが伸びず、久々にチャンスを与えられた8月6日第24節アウェー名古屋戦でまたも負傷。結局公式戦は13試合607分の出場にとどまり、特にリーグ戦は9試合しか出場できず苦しいシーズンとなりました。

当然、ポジション争いを考えれば「岩尾っぽい選手」枠で加入したのにその半年後に本物の岩尾が加入するのは聞いてない案件でしょう。とはいえ平野のプレー選択は結構一発で前の選手を使う判断が多く、相手を見るとは言いつつも、それは相手の隙を突くために相手を見るのであって、ゆっくりと盤面を整える、状況をイーブンにしてゲームを安定させるという志向とは結構違うところがあったので、それを個性の違いとして上手く使っていければ良かったのですが、怪我もあったし使いたいところで使えなかったんだよというリカルド側の言い分もあるかもしれません。

そんなわけであまり印象を残せなかった昨季の平野ですが、スコルジャ体制ではこれまでの序列に関係なく競争していけそうな雰囲気。というのも彼のサッカー感とスコルジャ監督の目指す方向性というのがマッチしていそうで、それは昨年の彼のインタビューによく表れています。

「相手の前線のフィルターは剥がせていると思うんですが、次のところで少し距離がある。後ろに人数を使っているぶん、前に行ったときに過疎化しているイメージがあるので、前線の個頼みになっている部分がある。

 理想をいえば、2センターバックだけでビルドアップして、2ボランチのひとりが前線を助けられるように入っていって、最後で6枚、7枚関われれば、ワンツーだったり、外にボールが入ったときにオーバーラップできたりする。前線の人数を増やすためには下げないで、思い切りのある縦パスを刺して、前の厚みを増やしていきたい」 

この発言から2日経ち、平野はさらに頭の中を整理していた。

「相手のプレスの波を崩すとき、僕はテンポを大事にしていて。早く前の選手に預けて、のびのびプレーしてもらいたいと思っているんです。あとは前線の選手に任せるというか。ただ、前線の選手たちに各々やりたいことがあるので、そこから各々が早くて、今は敵陣で揺さぶるイメージが少ない。

 それって過疎化も関係があるけど、そもそも厚みのある攻撃を仕掛けようというイメージがあまりない。味方のいるほうにドリブルして行って味方を使えばコンビネーションも生まれるはずなんですけれど。そこが点の入らない一番の要因かなと思います」

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リカルド体制、特に2年目となった昨季ではこうした考え方がリカルドの目指す「長いボール保持による盤面と試合展開の安定」にコンフリクトしたと思いますが、スコルジャ体制では逆に歓迎されそうな気がします。リカルド体制での岩尾がどれだけ信頼され重用されたかを考えても監督の志向とボランチのサッカー観、プレー選択の一致は非常に重要であり選手にとってはアドバンテージになるはず。このあたりを上手くアピールして他のボランチの選手たちとレベルの高い競争をしてくれればと思います。個人的に思い入れの強い選手なので、期待です。

42 工藤 孝太

今季もリーグ戦の出場はなしで、公式戦はACLグループステージの山東泰山戦にフル出場したのみと、出場機会に恵まれないシーズンに。昨年はユースの試合+ルヴァンでの出場といい感じでチャンスを貰えそうな雰囲気でしたが、今年は悔しいシーズンとなりました。試合数が少なすぎて何かを語るのは難しいのですが、去年に比べて身体が分厚くなった感じはあり、ボールを扱う技術にも安定感が増したような感じはあります。公式戦ではないですがフランクフルト戦は左SBとしてプレーし高い位置で仕掛けてクロスを上げるなど意外なプレーも披露してくれました。

今季の浦和はショルツ+岩波のコンビが絶対的だったことに加えて同じ左利きでJ2でのキャリアがあり身長も近い知念がレギュラーにチャレンジするという構図でしたので、キャラ被りの工藤にはなかなかチャンスがありませんでした。来季のCBの陣容がどうなるかはまだわかりませんが、工藤に都合よく考えたとしても岩波が抜けて犬飼が戻り、ショルツと犬飼が右利きとして2枚、知念と工藤が左利きとして2枚と4番手として数えてもらえるかどうかという感じでしょうか。来季も劇的に序列が向上することはなさそうな感じなので、レンタルで武者修行が妥当かも。足りないのはやはりタフさになると思うので、ここはひとつg(以下略)

とかなんとか言ってたら来季はJ2昇格組の藤枝MYMCに期限つき移籍することが発表されました。藤枝はかなり繋ぎたいチームらしいし自分達の色を出さないならサッカーやってる意味がないくらいの突き抜けた理想主義を掲げるチームらしいので、左利きのビルドアップ型CBの良さを存分に発揮してほしいところ。J2ではまだ厳しい部分もあるかもしれませんが、上手くいけば大きな経験が得られそうです。頑張れ。

44    大畑 歩夢

昨季鳥栖から加入の若手左SB。鳥栖のSBといえば中野伸哉くんが有名ですが、大畑も負けず劣らず有望な選手です。今季はリーグ戦22試合に出場し1422分プレー。特筆すべきはベンチ入り回数の少なさで、リーグ戦でベンチに座ったのはたった3回。つまり、使えるならほぼスタメンで使いたいという信頼を得ていたことになります。まあそもそも昨季の浦和は左サイドバックの陣容が心許無く、両サイドができると期待されていた馬渡のコンディションがアレでアレだったりしたために大畑に頼るしかないような状況があったのも事実ですが。

パフォーマンスとしてはビルドアップの安定感はポジションを争うライバルの間では頭ひとつ抜けていたかなという印象です。ボールの置き所が良いし、あまりガチャガチャしないのでボール保持の局面では非常にスマートな印象。ただ本人が得意と言っていた前線に駆け上がってクロスなりゴール前の合わせに関わったりする部分はあまり出ず、アシスト数もたったの1と不完全燃焼感は否めません。また守備では激しく鋭く寄せられるのが良さでしたが、ACL準決勝でのPK献上なんかを見ると相手のレベルが上がるとまだ少し苦労するのかなという印象。身体が大きい選手じゃないので、相手のフィジカルレベルが上がって体格的なハンデが大きくなるともっと予測やポジショニングの精度を上げていかないと力づくで攻略されてしまうようなシーンが増えるのかなという印象もあります。

とはいえ昨季は加入時点で負傷を抱えておりまともにキャンプもやっていない状態だったので、本人曰くシーズンを半分以上消化する夏ごろまではコンディションが上がりきらないままプレーしていたとのこと。リカルドもそれを踏まえて前半45分だけの出場とするなどプレータイム管理はかなり慎重に行っていたようです。こうした状況を考慮するとキャンプからしっかり準備できる来季はもう一段上のパフォーマンスを期待してもいいのかなという感じでしょうか。
戦術面で言うと前5枚に入って早めに高い位置をとる役割よりは、最終ラインに止まってビルドアップに関わりつつ縦パスが入ったタイミングに合わせて一気に前線に絡んでいくプレーの方が得意そう。そういう意味ではリカルドの戦術との親和性は実はそこまで高くなかったのかなという気もします。スコルジャ監督はSBにあまり特殊な役割を求めない印象で、内側に入ってプレーする要求も強くないように思えるので、来季の方が大畑にとってはやりやすいかも。問題はコンビを組むSHですが、これもSHが内側をとってくれる選手の方が大畑は色々やりやすいはずなのでポジティブか。松尾は問題ないでしょうが、シャルクあたりを上手く使ってくれるとワクワクが広がりそうです。
かなり大人びたプレーをする頼もしい選手なので忘れがちですが今年22歳になる年でまだ大学4年生相当。そう考えるととてつもないポテンシャルというか対応力ですが、大きな怪我をしないように一歩一歩ハイレベルな経験を積んでほしいと思います。

監督  リカルド・ロドリゲス

すでにガチ対話でチーム全体のパフォーマンスについての話はたくさんしたので、ここでは割愛。2年目のシーズンは自らの志向をかなり押し出してチーム作りを進めた印象でしたが、なかなか結果には繋がりませんでした。全てが終わった今考えると、リカルド個人は良い人材だと思いますが、プロフェッショナルフットボールがどんどん科学され、知見が深まり専門性が増していく現代においては、リカルドはリカルド個人でなんとかしようとする部分が大きすぎたのではないかという気がします。別の言い方をすればそれは、クラブ自体がリカルド個人でなんとかできる範囲に非常に大きな期待をしていたということでもありますけど。リカルドは就任時に通訳の小幡コーチ以外は徳島から引き抜かず、その徳島でもほとんど単身乗り込んで日本人コーチたちと時間をかけてチームづくりを進めた(そしてそうして日本人コーチにノウハウを提供することも自身の就任の意義とポジティブに語っていた)わけですが、こうしたアプローチはこの先段々と淘汰されるのではないかという気もします。もちろん欧州のトップレベルでも監督+コーチ一人だけの非常に小さなユニットでチームを組んでいる例、そもそもコーチを引き連れないことをモットーにする例もあるとは思いますが、サッカーに限らない話として考えても、それぞれの専門家が結託してチームを作り、長年仕事をすることで経験や言語化されない感覚を共有し、それぞれの専門性を活かして仕事をした方がプロジェクトは早く進むだろうなという感覚はあるわけで。

そういう観点でいうと、今後のリカルドのキャリアを考えたときにどこかに、特に欧州のどこかに拠点を持ってチーム・リカルドを立ち上げていくことは彼にとってメリットが大きいのではないかと思います。そもそも監督キャリアはアジアばかりで欧州の感覚からすれば流浪の人という感じでしょうから、これまでは現場で一緒に仕事をして信頼しあえる人材、特にスペイン人人材というのを集めにくかったかもしれませんし。本人の希望キャリアはイングランドでの仕事みたいですが、たとえチャンピオンシップ以下のカテゴリーだとしても単身乗り込んで3年・4年のスパンでチームを作るという感覚は受け入れられにくそうな気がします。人柄は素晴らしいし友達は多そうなんで、良い相棒や参謀を見つけるのが今後のステップアップに重要かもしれません。

あとはどうしても戦術やシステムに人を当てはめるタイプなので、大駒の扱い方に難を抱えがちというのは明確に弱点となると思います。しかも欧州レベルでは本人に実績がないので日本よりも難しそう。実績がありロッカールームでの存在感が大きい選手をどのようにチームに組み込むか、もしくは自らの理想とする戦術的機能をある程度妥協しても選手同士のシナジーを発揮させる方向の采配を取り入れられるかどうかなど、言語化・理論化されにくい、いわゆる"ボス"としてスキルというのはもう少し必要なのではないかなというのが正直な印象です。

とはいえ、浦和レッズというクラブの経緯を踏まえればビルドアップのみならず現代的なサッカーの常識・感覚にキャッチアップできていなかったチームを預かって、チームを部分的にでもモダナイズさせてくれたことは大きな功績で感謝するばかり。ビルドアップの基盤があるのかないのかはどんなサッカーをするにしてもチームの安定性という意味で重要なポイントになるので、少なくともこの点に関してはリカルド・レッズを少しでも知る人は評価するだろうし、もしかするとそうして少なくともビルドアップの基礎を植え付けてくれ、というオーダーで仕事をとっていくのかもしれません。

欧州でキャリアを積んでほしい気持ちもありますが、彼の年代の監督でアジア圏でこれだけ名前が売れている人もなかなかいないので、そう遠くないうちにアジアに帰ってくるのではないかという気がします。それが日本なのか韓国なのかそれとも西アジアなのか、はたまたアジアではなくアメリカなのかわかりませんが、「サッカー未開の地」でビルドアップとクローズドなサッカーを布教する人になっていたら面白いなと思いました。

またいつか。

チラウラー 96

今季のレビューは最も出来の悪かったルヴァンカップ準決勝第2節ホームC大阪戦のみと期待はずれの結果に。

レッズが勝負の3年目を迎える来季はACLを含む過密日程への対応が求められることに加え、チームの完成度がこれまで以上に高くなるため勝負を分ける細かい狙いや流れの描写、戦術的配慮の観察をより高いレベルでこなしたいところ。

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と昨オフに言っていたのはなんだったのか?そもそも書いていないとは。

言い訳をすると同じような構造・課題を露呈する試合が長く続き、またフットボール本部の目指すコンセプトの体現という意味でもかなり評価が難しい方向にチームのプレーが流れて行ったので書いているとネガティブになり過ぎてしまうという感覚があったのですが、それはそうと記録は残しておいた方が良かったよねという反省もあります。この点はゆうきさんやKMさんが精力的に活動していて今年も二人は凄いなあと思ったのでした。もっと書く人が増えるともっと楽しいのにと思います。みんなに期待。

その他のパフォーマンスでは、「個人的に今後が気になる選手」シリーズからは高橋利樹が今季加入し3年連続で浦和の新加入選手を先出しすることに成功し最低限の面目を保ちました。今季も記録を継続することが期待されますが、だんだんと浦和のスカッドも固まってきており、またJ2に有望な若い才能が多く集まる傾向も強まっており難易度は増しています。また「3年計画」の振り返りでは9万字に及ぶガチ対話を書き上げ、マクロな視点、戦略面での取り組みを記録・考察していく面では一定の存在感を発揮したと言えるかもしれません。ただガチ対話シリーズは「長すぎて読んでない」という極めてシンプルな理由で期待したほどのPVを得られず、世間からのリアクションはイマイチ。とはいえこれが「チラシの裏」であり、「チラシの裏にでも書いてろ」と言われそうなことを書きつける場所という意味ではこれは正しい方向性のパフォーマンスであり、これまでで最長の文章量をまとめきったことで今後もニッチな読み物として戦っていく意思を強めたとも言えます。

来季は個人的に期待度が高いスコルジャ体制の船出ということで、ゲームの感想を残していくモチベーションも回復していきそう。昨年に引き続きサステイナブルな取り組みをテーマに、マイペースにやりたいと思います。

 

というわけで浦和レッズの2022シーズンに関するチラ裏はこれにて終了。昨シーズンも長文にお付き合いいただきありがとうございました。それでは。